Jay Alabaster (Princeton U)
1990年代にインターネットが普及するとともに、オンライン辞典が出現しました。「和英・英和」辞典はその一種であり、単語の意味の検索にとどまらず、漢字や例文の検索などもできます。しかし、ほとんどのオンライン辞典はそれぞれ独立した固定データを使用しているので、今まさに書かれ、読まれている「生」の日本語を参考にできないのです。……そこで、「れいぶんくん」が登場! インターネット全体がデータのもとになるため効果的で、多様な生きた日本語を検索でき、いろいろな用途に活用できます。
ぜひ「れいぶんくん」をお試しください。
Ryan Atwater (U of Washington)
この発表で、私は黒井千次という作家の『時間』という短篇小説集を取り上げます。この短篇集の中の小説は高度経済成長時代における「働く」ということを考察しています。「聖産業週間」では、或るありふれたサラリーマンが突然に仕事に対して非常に熱心になります。「時間」では、もう一人のサラリーマンがメーデー事件に参加した記憶と戦っています。「穴と空」では、三人の男が休みを取って、熱心に穴を掘っています。これらの作品を含め、この短篇集は高度経済成長時代における個人的な問題意識を発掘します。「働く」ことの価値や目的は何でしょうか。「働く」ために、自己を抑圧しなければならないのでしょうか。
Davina Bankole (Yale U)
1969年に発表された大江健三郎の「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」という短編小説集から「走れ、走りつづけよ」という一編を取り上げて、分析したいと思います。一人の登場人物がエリートの階段から転落し、狂気に落ち込んでしまうのですが、複雑で、様々な種類の狂気が示されています。「走れ、走りつづけよ」という言葉はどういう意味でしょうか。個人的な卓越を追い求める事でしょうか。けれども、必死に走りながら、皆は不可避な狂気に向かっているのではないでしょうか。人間はただ逃げているのではないでしょうか。狂気を主題として描かれているこのストーリーは政治、国際関係、性的な逸脱、周りと調和できない自分、という大江らしいテーマについての作品です。
Jenny Bazzetta (Washington U in St.Louis)
ふるさとの象徴でもある民家建築は江戸時代に非常に普及したが、明治を迎えると近代的な生活にふさわしい新たな建築様式が必要となったため、民家は次第に衰退していった。やがて民家は農村の近代化や高度経済成長のために激減し、政府は1966年から全国民家緊急調査を実施した。「民家は大切に守らなければならない…」こうした考えが浸透し、民家は文化財として「保存」される存在となった。しかしその一方で、「町(村)おこし」のための観光資源として民家は民俗芸能や諸行事の舞台となるなど「活用」される存在にもなっていったのである。保存と活用という矛盾する二つの文脈において、いったい民家はどのような変遷を辿ってきたのだろうか。
本発表では、民家に対する文化政策や神奈川県内の民家を通して、現在の民家の状況を論じたい。
Kristina Buhrman (U of Southern California)
近代以前の思想の中で災いは単なる不幸ではなく、深い意味も持っていた。中国から伝来した儒教では、自然異変は天命・天意を表し、朝廷を評価するものである。日本で生まれた思想によると、異変やたたりを通じて神々の意思が伝えられ、占術の立場からみると非常な自然状態には個人の運命も反映されている。その上、いうまでもなく災いは撫育すべき民に困難をもたらすことである。したがって、天変地異が起こったら、権力者にとって対応策は重大だと考えられている。新しい社会構造が作られつつあった鎌倉時代前半において、災いそれぞれの継続性・予測可能性・差異を考慮しながら、鎌倉幕府と京都の朝廷の災いについての意識と責任感を研究しようと思う。
Jessica Busch (U of Hawaii)
日本人の平均寿命は女性が85歳で男性が77歳、世界の中で一番長く生きる。まだ決定的ではないが、この先例のない平均寿命を説明するために遺伝や社会生活や食生活など多数の仮説が立てられている。長寿パターンはこれらの一つの仮説というより、複雑で様々な要素に影響を受けている現象のようである。西洋近代社会では生物科学論は民間信仰と結びついている。明治維新以降、西洋科学が重視された日本ではこの科学と伝統がどのように結びついているのだろうか。この発表は日本の生物科学、文化と伝統概念の関係に注目し、長生き現象について九州の高齢者の考え方と生活を医療人類学的に考察する。
Adam Cardamon (U of Hawaii)
日本の会社や研究所などで働いていて新技術などを発明した人は、「職務発明者」と呼ばれる。日本の特許法35条によると、ある発明者の特許を受ける権利は、発明者に帰属することを原則としている。その上、雇用者は、発明に関わる権利を承継することもできる。その権利を受ける代わりに、雇用者は、「相当の対価」を発明者に支払わなければならないとしている。その対価について不満がある発明者が、自らの会社を訴える事例が最近増えてきた。これらの事例に関わる判決や背景を検証してみたい。
Jennifer Connelly (U of Minnesota)
日本を始め世界各国では、経済発展と共に生まれた教育競争が減速する気配はない。それどころか、国際化の影響で競争は更に激しくなっている。国際的な舞台で子供を有利な位置に立たせたいという願望を持って、インターナショナル・スクールに入学させようとする親は年々増加している。このグローバルな現象をローカルな規模で探ることを目的として、横浜インターナショナル・スクールと横浜中華学校に入学を希望する日本人保護者の動機を学校側の視点から比較した。
Ann Marie Davis (UCLA)
周知のように、日米和親条約、いわゆる神奈川条約(1854年)に伴って、日本の政治や、経済、文化などがはなはだしく改革された。その激変のなかで公娼制度、そしてそれと矛盾した廃娼運動がともに欧米から日本に導入された。私の発表では、この二つの事柄をダブル・スタンダードとして説明・検討して行きたいと思う。その際横浜でのケースを一つの例として取りあげたい。
Malcolm Dort (Carleton College)
日本の政府開発援助(ODA)は途上国の国民の生活を向上させ、地域の安定に貢献する目的で行われている。また、ODA大綱に書かれているように「民主化の促進と基本的人権及び自由の保障状況」は援助の基本条件である。しかし、一方で、日本はミャンマーをはじめとする圧制的な政府にODAを実施していると非難されている。この発表では、日本のミャンマーに対する援助体制に焦点をあて、外務省、通信社、NGO等の資料と、インタビューを用い、ODAと世論との関係について考えることとする。
William Dunbar (UCLA)
現在、東京都八王子市にある高尾山はハイキング・スポットとしてよく知られている。しかし、この山が元々観光地ではなく、霊山であることはあまり知られていない。今日でも山頂には、飯綱大権現という天狗を本尊として祀る真言宗智山派薬王院有喜寺が威容を誇り、地域の信仰の対象となる一方で、山伏が修行を行う修験道の霊山という一面も持っている。この発表では、744年の行基菩薩による開山の時から現在までの高尾山の歴史を紹介する。更に、地域において高尾山が果たしてきた役割、及び交通機関の発展とともに進んだ観光地化という現象についても、いくつかの点を加えたいと思う。
Mark K. Erdmann (U of London, SOAS)
(発表者の希望により、このページへの詳細の掲載は控えさせていただきます)
Maria Farkas (Johns Hopkins U)
日本国憲法は、制定されてからほぼ60年間全く改正されていない。その憲法が、なぜ今年、国会やメディアなどで重大な議論になっているのだろうか。今までに提出されたいくつかの主要な改正案の主な論点は何であろうか。憲法改正実現の見通しはどうであろうか。ほんとうに憲法の改正は必要なのだろうか。改正にどんな利点があるのだろうか。このような問題について、一外国人の意見を述べてみたい。
Michael Folland (Lewis and Clark College)
現在日本は「循環型社会」を作るために、いろいろな方策を取っている。その中で横浜市は「G30計画」という2010年における全市のゴミ排出量を2001年度に対して30%削減する計画を推し進めている。環境への負荷を低減するためにゴミの分別やリサイクルの重要さは不可欠だ。が、350万横浜市民に徹底的にゴミを分別してもらえるようにすることはなかなか難しい。そのため横浜市は様々な啓発活動やPRなどを行っている。本発表ではその啓発活動やPRを紹介し、その効果について考えたい。
「G30計画」が成功すれば、横浜市のイメージがよくなるだけではなく、将来「G30計画」はゴミ削減のためのモデルとして見られ、全国の地方自治体に大きな影響を与えるのではないだろうか。
Kevin Fujitani (Ohio State U)
約100年前、栄養学は、一種の革命であった。ビタミン理論の発明以来、当時のさまざまなビタミン欠乏性疾患などのために、日本、欧米の政府が栄養についてのキャンペーンをすすめはじめた。その一部として、生物学研究にも政府が資金援助をした。有名なものの一つは、鈴木梅太郎氏の研究室だった。大学教授は士族出身であることがふつうのこの時代、鈴木氏は静岡県の農家に生まれた。にもかかわらず、さまざまな成功をおさめる。日本の絹産業に貢献し、ビタミンB1と考えられた化合物を発見し、合成酒を作り上げた。昭和18年に文化勲章を受賞した。発表では、鈴木氏の研究とその意義について紹介したい。
Isaac Gagne (Georgetown U)
渋谷にいる若者たちは、実際に何をしているのだろうか。私たちの渋谷に関する印象は、ほとんど70年代・80年代のイメージに基づいているが、現代の渋谷に遊びに行く若者たちの行動、特に、ハチ公前の「待ち」と、街の「歩き」はかつてと異なる。社会学、心理学、都市計画の論理に基づき、フィールドワークやアンケート調査から得られた情報をもとに、携帯電話が若者に与える影響、不況と都市計画に影響された消費、それからメディアにおける渋谷の扱い方を考察する。
Timothy Goddard (Harvard College)
近年、日本には独創的、個性的な作品を作っている映画監督がいる。このような監督は独自のスタイルで世に現れて、オートゥールと見なされてきた。岩井俊二と是枝裕和という二人の監督に注目して、なぜ岩井と是枝がオートゥールかという質問に答えたい。両監督の映画を分析して、現代オートゥールという現象を明にし、文化的な文脈と芸術的な影響を説明したいと思う。オートゥールは監督1人の現象なのか、それとも周りの文化や人間と結び付いているのか。
Aaron Hames (Washington U in St.Louis)
平安時代の末から鎌倉時代の初期にかけて、日本では飢餓、疫病、戦争といった数え切れないほどの災害が相次いだ。その結果、仏教の役割が拡大し、大衆にまで仏法が広がった。この流れを展開させた僧の一人が、鴨長明であった。『方丈記』を始めとして、様々な仏教を題材とする書物を創作したが、その中で最も説法的な作品は『発心集』という説話集である。本発表では、鴨長明が当時の人々に仏心をもたらすために、どのように『発心集』を書いたかということについて検討したいと思う。
Andrew Hazelton (Stanford U)
アメリカのヤフー、マイクロソフトなどの会社は日常会話に出てくる。日本でも戦後の何もない時代ホンダやソニーが創業し、国際的な大規模な会社になった。現在、ライブドアというベンチャー企業がニュースの話題になっているが、そのような企業はアメリカより少ない。ベンチャー企業は新しい市場を作るし、就職機会も作って、経済を促進するので、ベンチャー企業を支援することは政府の優先事項になるべきである。
本研究は日本のベンチャー企業の環境と政府や民間企業のベンチャー支援方法の分析を目的としている。政府の方針、金融制度の変化、人材の移動を通して現在の日本におけるベンチャーの状態を明らかにする。又、それをアメリカの状態と比べて見たい。
Brandon Higa (U of Southern California)
本研究の目的は、日本の東南アジア諸国に対する経済連携政策の変化について細かく考えることである。従来、経済産業省の経済連携(FTA:Free Trade Agreement)の推進に関する提言は十分に行われていない。そこで、このプロジェクトでは自分の経済産業省のインターンシップの経験と研究にもとづいて、経済産業省の現在の経済連携政策を明らかにしようと思っている。経済産業省はどのような政策でアジア諸国と自由貿易を作っているのかを考察する。また、世界経済への影響を中心に、アメリカ合衆国や欧州連合への影響にも言及する。そして、様々なアジア諸国に対する経済連携政策の特徴も明らかにしたい。最後に、将来に経済連携政策はどのように変化していくかについて考えてみたい。
Joshua A. Irizarry (U of Michigan)
日本仏教の曹洞宗の大本山總持寺という寺は1322年に能登半島(今の石川県)で開かれた。しかし、1898年(明治31年)に突然の火災が起こり、この能登半島にある總持寺が全焼した。檀家の強い反対があったが、能登半島で再建するかわりに、横浜市の鶴見区に移転することになった。このようにして1911年(明治44年)總持寺は「横浜の市民」になった。
しかし、横浜で生まれ一生横浜で暮らす市民にとってさえ、しばしば總持寺は「何をしているか分からない隣人」である。そこで、本発表で總持寺の歴史を簡単にご紹介したい。特に總持寺の開祖はどんな人だったか、どうして總持寺は横浜に移転されたか、總持寺の人は横浜市民や横浜市などと新しい関係を作らなければならなかったが、どのように関係を作ってきたか、また、今まで檀家や一般の人にどのようなサービスや施設を提供してきたかなどについて話したいと思う。
Benjamin Keim (U of Washington)
日本とアメリカの特許制度を比べると、いくつかの異なる点がある。例えば、二人以上の人がほぼ同じ時期に同じような物を発明した場合、誰が特許権を得るかという問題の解決方法はその一つである。日本は、最初に特許庁に発明の出願を申請した人が特許権を得るという先願主義を採用するのに対し、アメリカは先に発明した人が特許権を得るという先発明主義を採用している。この二つの異なる制度の背景と実際の影響を検討する。
Christopher Kodama (U of Washington)
阪神大震災から10年、日本の市民セクターは大きく発展し、ボランティア精神は小学生から年配の人達にいたるまで日本の社会に浸透した。公益を目的とする組織が増加し、活動目的は多様化、その活動場所は国内から海外に広がった。このような発展により日本の国際協力NPOやNGOはスマトラ沖地震・津波に対し、速やかで十分な対応が出来るようになった。しかし、国際協力を目指すNPOやNGOは、現在重大な問題に直面している。この発表では、NPOやNGOの具体的な話を通じて、国際協力がどのような問題を抱えているのかを説明し、今後、どのようにNPOやNGO組織を強化したらよいかを検討したい。
Andrew Lee (Yale U)
一般的にアメリカの医療制度は世界一進んでいると見なされている。しかし、ここ十年ほど、様々な学者やジャーナリストたちによってアメリカの医療制度は批判されてきた。また、2000年の世界保健機関の世界医療制度順位調査によるとアメリカの医療制度はコスタリカに次いで世界で37位に位置づけられている。それに対し、日本の医療制度は10位であった。
本研究の目的はこの結果を考慮しながら日本での心疾患死亡率を他先進国と比較し、どうして日本の心疾患死亡率が今の低い状態であるか検討することである。心疾患の死亡率から見たアメリカと日本の医療制度の違いが発表の中心となる。
Patrick Luhan (Columbia U)
江戸時代幕末の歌舞伎に悪人を主人公とした「白浪物」が現れた。江戸中期元禄時代に作られた「夏祭浪花鏡」等の芝居にも一種の悪人が主人公として登場しているが、時代が進むにつれ、悪人が主人公という傾向は強まり、歌舞伎だけでなく他の文学のジャンルにもその傾向が現れた。
白浪物は当時混乱した社会背景を反映し、退廃的であるとよく言われている。本発表では、白浪物の代表的作家である河竹黙阿弥の「青砥稿花紅彩画」(白浪五人男)をとりあげ、白浪物とは単に当時の社会情勢を反映したものだけではなく、その白浪物の「世界」の特徴を発展させたものから産み出されたものであること、また、白浪物は退廃的であるというより、むしろ、「美」を表していることを論じたい。そのために、当時の浮世絵や文学の傾向、そして幕府の改革の影響を分析した。
Amity Malack (Earlham College)
明治時代前半日本政府によって欧米に派遣された岩倉使節団の参加者として5人の幼い日本人女性がアメリカへ渡った-これが日本で最初の女性留学生である。岩倉使節団の男性参加者はアメリカで7ヶ月だけ過ごした後、イギリスで任務を続けることになった一方で、女性は派遣団員としてアメリカで10年間を過ごす事になった。私はこの5人の留学生の中の一人、山川捨松について発表したい。特に彼女の日本に帰国してから受けた社会的な障害と彼女がこの障害をどう克服したかについて述べる。
James Malenkos (Indiana U)
日本人のほとんどは医療保険に加入しており、先進国の中で一歩先をいくものに違いない。しかし、東京都の台東区、いわゆる「山谷」で路上生活をしている人々のほとどはその制度から、もれてしまっている。日本国憲法第25条には「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書いてあるが、山谷のおじさん達のような特別な医療ニーズに応じられるのは、厚生労働省だけではなく「山友クリニック」のような施設である。そこは、数人のスタッフとボランティアの医師や看護師の努力と忍耐のおかげで、健康保険証、資産、住所さえ持たないおじさん達が治療を無料で受けられる。本研究では、発表者の実習体験に基づき、さらにボランティアの医師や経営者へのインタビューを交え、山友クリニックの仕組み、歴史、日常活動、財政的な面などを紹介する。この発表をお聞きいただき、無料医療ニーズへの意識をぜひ高めていただきたい。
Lara Mones (Middlebury College)
ポスト舞踏期に出現し、ジャンルの全く違うものを巧みに組み合わせる日本唯一のマイム集団「水と油」。言葉を使わず、哲学的な概念を用いながら、新たな舞台芸術の領域で身体表現を試みている、個性豊かなこの四人組が内外から高い評価を得ている。20世紀のフランスで作り出されたDecrouxのパントマイム手法をもとに、ダンス、演劇、音楽、コメディを融合した彼らの作品は、日本的だといえるのだろうか?否、そうではないのだろうか?私達はこの「水と油」というグループといったいどう接すればいいのかについて、この発表を通して検討してみたい。
Jon Pal Mouzakis (Yale U)
横浜みなとみらい21地区と野毛。この二つの地域は競争関係にあると言う。しかし、地下鉄みなとみらい線の開通後、野毛は集客力が落ち、今やMM21のきれいで魅力的な環境に対抗できなくなったと思われている。確かに野毛はMM21によって、間接的には影響を受けたと言えるであろう。というのは、横浜市によるMM21の発展計画を通して、東横線が廃止され、結果として物質的に野毛へのアクセスを奪うことになったのである。しかしそれだけではなく、心理的なアクセス不足の問題もある。つまり、初めての人には入ることさえ難しい。何がどこにあるか分からず外から見ると、まるで別の国のようである。しかし、野毛はまだ活気と魅力がある町である。この発表ではその魅力を皆さんにご紹介したいと思う。
Jin Kyung Park (U of Illinois)
女性の妊娠と出産は単純に個人の問題ではなく、国家の人口政策と結びついていると言われている。これは日本の近代史でもよく見られる。二十世紀初頭の日本では、「産めよ、増やせよ」というスローガンでよく分かるように、人口を増やすことが国家的に望まれていた。私の発表では日本の植民地であった朝鮮では女性の妊娠・出産と人口政策はどのような関係があったのか、それと共に、女性の不妊はどのように受け取られていたのかについて問う。さらに、不妊はどのように管理されていたのかについても検討する。つまり、これらを通して朝鮮では女性の不妊と女性のアイデンティティはどのように結びついていたのかに答える。
Susan Pegues (Georgetown U)
日本の広告の中にはかなりの頻度で外国人が登場するが、これは一体なぜだろうか。この疑問に基づき、日常で接する広告を分析したところ、外国人が登場する広告は(1)美容系、(2)セレブ系、(3)非日常系の3つに分類できることが分かった。本発表では、それぞれについて、詳しく説明すると同時に、広告に外国人を使用することの目的と効果について考察する。また、ハーゲンダッツを事例としながら、広告表現の変化についても説明する。
Elisheva Perelman (UC Berkeley)
プラトンによると芸術はただ社会の現実の偽物に過ぎず、アリストテレスにとって芸術は現実と関わる治療手段だそうだ。スーザン・ソンタグと柄谷行人は、芸術においてはよく病が社会のメタファーとして使われると書いた。この『意味という病』的パラダイム、あるいはプラトン的考え方やアリストテレスの議論が正しいとしたら、日本の伝染病-結核-が最も猛威を振るっていた大正・昭和初期の文学はどういう意味を持っていると言えるだろうか。この極めて簡潔な概観のもとで、結核という病、結核患者のイメージ、そしてその利用のされ方を検討しようと思う。
Crystal Pryor (Brown U)
2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ事件は、日本の政府や国民にも大きな影響を与えた。国民の安全に対する意識や自衛隊のあり方は変化し、外交・安全保障政策の決定は官邸主導になりつつある。こうした変化は個別に分析されがちであるが、この発表では、国民の意識と政府のテロへの取り組みとの関係を明らかにしていきたい。まず、同時多発テロ事件発生以降の外交・安全保障政策、特に自衛隊派遣にかかわる法律の成立や議論について述べ、次に新聞等の世論調査の分析を行うこととする。
Mark Rogoyski (U of Texas)
日本で3番目に大きい簡易宿泊所のまち、いわゆるドヤ街である寿町を紹介したい。横浜市中区にある寿町は、戦後は日雇い労働者を寄せ集めておくためのまちであった。しかし、バブル崩壊後は失業者が増加し、そのうえ労働者の高齢化という問題を抱えるようになった。
現在、屋外生活者が多い寿町は、そこに住む労働者たちにとって暮らしにくいといってもよいが、様々な団体から支援を受けている。つまり寄せ場のまちから福祉のまちへ変わりつつある。横浜といえば、確かにみなとみらいをはじめ、中華街や元町などの華やかな名所が思いうかぶ。しかし、角を曲がった所に寿町も共存している。偏見やステレオタイプ、または無関心を捨て、現実の寿町も意識してほしい。
Karen Seamans (Georgetown U)
横浜市教育委員会の平成16年度統計によると、約2000人の外国籍児童が小・中学校に通っている。この児童たちの学習支援は今まで「日本語指導」に力が注がれる傾向にあったが、この2・3年、日本語だけではなく「母語」による教科指導などの全面的な学習支援に向かうようになった。また、今まで行われてきた授業外支援の国際教室や日本語教室だけではなく、授業内での支援も始められるようになった。この傾向の背景には公的、民間、そしてその二者をつなぐ存在であるYOKE(横浜市国際交流協会)の活動がある。YOKEの役割を中心にこの変化について今回の発表で紹介する。
Dorothy Shih (Cornell U)
日本のポップカルチャー・ブームの影響でアニメやドラマが世界中で人気になっているようです。それを見て、日本人はそのような人たちだと間違えて思い込んでしまう人も多いことでしょう。これまで私は旅行で何回か日本に来たことがありましたが、住んだ経験はなかったので、外国人としての既成概念を持っていました。この発表のために、日本企業と日本にある外資系企業に勤めている人にインタビューをさせてもらった結果、間違った日本のイメージを持っていたことに気がつきました。みなさんも日本の企業に、間違ったイメージをお持ちではないでしょうか。この発表では、様々な企業の実際の姿をお伝えしたいと思います。
Stacie Shinsato (U of Hawaii)
西洋の教育を受けた人々が持っている侍に対するイメージと日本人が持っているそれとは異なるという気がする。最近上映された映画「ラストサムライ」に出てくる侍は理想的な人物として描かれているが、「たそがれ清兵衛」では、侍はみすぼらしく格好悪く描かれている。実際の日本の歴史や新渡戸稲造の「武士道」という本の内容を考えてみると、「ラストサムライ」よりも「たそがれ清兵衛」の侍の方がより実際の侍の姿に近いことがわかる。江戸時代の武士の本当の生活について考察したい。
George Sipos (U of Chicago)
宮本百合子(1899-1951)は1927年から1930年までソヴィエト・ロシアに滞在し、帰国してからプロレタリア作家として活動し始めた。1924年に有名な「信子」という私小説を書きながら、またその時にはプロレタリア文学運動について何も知らなかったにも関わらず、宮本はどうして1930年にまったく違う知識人としてソヴィエトから帰国したのか。そして、共産主義者になるという宮本の行動は1930年代後半のいわゆる「転向」(共産主義者としての活動をやめること)のような行動として見られるのだろうか。本発表では以上の点を中心に議論したい。
Michael Sirvint (Indiana U)
証券会社の株価はどのように計算されているのでしょうか? 実は有価証券の株価の計算方法はそんなに難しくありません。これは企業の営業によって得られる現金(キャッシュ・フロー)と密接に関係します。この関係を理解するために、簡単に計算書と企業競争環境との結びつきに触れながら、この重要な二つの柱はキャッシュ・フローの計算に繋がっている事を重視したいと思います。キャッシュ・フローの分析の例として、東京証券取引所の一部に上場されているカッパ・クリエイトという株式会社を取り上げたいと思います。
Michael Sprunger (U of Hawaii)
最近の韓国での半日デモは、植民地時代からの日本の帝国主義に対する恨みを表している。大日本帝国による植民地支配からの開放後ほぼ六十年が経過しているにもかかわらず、朝鮮半島の植民地の過去の歴史に対する苦悩は今日もなお残っている。
おそらく、朝鮮における植民地支配のイメージとして一番印象深いのは警察であろう。警察には幅広い責任と権威があり、日本政府や朝鮮総督府の政策を実行する道具として機能していた。さらに、しばしばその組織は腐敗し、また社会の中で彼らの力を行使したと言われている。
しかし従来の研究は、当時の警察官や巡査の募集方法やその給与形態、訓練方法などを明らかにしていない。それゆえ、本発表では朝鮮警察の半数を占める日本人警察官の募集、訓練などの調査を通して「朝鮮警察」の新たな一面に光りを当てたい。
Adam Steckler (UC Berkeley)
現在世界有数の大都市である横浜市は戦争直後の混乱から現在までどのような戦後復興の道を辿ってきたのだろうか。空襲、戦災、占領、食糧難、闇市―このような事柄がどう結びついているのだろうか。そして、横浜市民はこの困窮生活をどう乗り越えようとしたのか。本発表では、当時の写真を中心として、「その時」の横浜の様子を簡単に紹介ながら、この問いに答えて行きたい。これらの写真を通じて、当時の横浜市民の苦労、辛抱と努力をはっきりと浮かび上がらせたい。
(発表者の希望により、このページへの詳細の掲載は控えさせていただきます)
Kristin Surak (UCLA)
茶道というのは日本でも海外でも日本の伝統的文化だと見做されている。しかし、日本におけるお茶とアメリカにおけるお茶の実践は同じ意味を持つであろうか。この質問に答えるため、2000-2003年にかけて関西の都市とロサンジェルスの稽古場で参与観察を行った。本発表ではこの調査に基づき、茶道がアメリカで実践される場合、日本国内で行われる場合と比較して、どのような変化が生じるかに焦点をあて、報告したいと思う。
Ellen Tilton (Carleton College)
中城ふみ子の短歌について発表します。1922年北海道で生まれた中城は肺癌と乳癌に冒され、乳房切除の手術を受け、31歳で亡くなりました。短歌集として『乳房喪失』と死後編集された『花の原型』がありますが今日は『乳房喪失』からの短歌をいくつか取り上げます。最初は精神的な復活と復活の制限というテーマを探求する早い時期の短歌の分析をし、それから乳房切除後の孤独や絶望を表している短歌を見て行きたいと思います。
Torsten Weber (Leiden U)
世界における日本の立場についての諸議論のなかでは、1885年、福澤諭吉により発表された「脱亜論」は恐らく最も知られているものであろう。これに対して、欧米列強によってアジアの植民地化に抵抗すること、又は東洋の伝統的な政治、社会、経済制度の設立を唱えた「アジア主義」という異論は軽視される場合が多い。それは日本のアジア諸国に対する侵略を正当化するプロパガンダにすぎないと見做されたためである。
この発表では、アジア主義の概念を紹介し、中国研究家でありジャーナリストでもある橘樸(1881-1945)のアジア主義的な思想を考察したいと思う。
Jane Yamashiro (U of Hawaii)
ある出来事について理解しようとする時、どんな立場や視点から説明されるかによって、微妙な違いが生まれるということを意識する必要がある。その出来事に複数の国が関係している場合、その相違にはさらに気を付けなければならないのではないだろうか。それぞれの国の社会的文脈や歴史的背景を含めて、理解することが必要だと思われる。日系アメリカ人の歴史を見る時には、どのような点に注目するべきであろうか。この発表ではJICA(国際協力機構)の海外移住資料館に展示されている言説の分析を通してこの問題について検討したいと思う。日系アメリカ人の歴史を語る時、日本語と英語ではどのようなズレが生じるのであろうか。ひとつの展示を例として挙げ、分析してみたい。