Klaudia Adamowicz (Jagiellonian University)
本発表では原宿系のサブカルチャー研究について紹介する。先行研究の多くは原宿系のサブカルチャーは経済と社会への反発という要素で説明されている。本研究では理解社会学の立場に立ち、変化し、消えつつあるとされる「原宿」に、登場人物が参加する個人的な意味や動機などをインタビュー等で明らかにすることを目指す。予備調査をもとにビジュアル系を例に挙げ、現在の原宿系は経済と社会への反発ではなく、憧れという要素が適していると主張する。
James Almony (University of Hawaii at Manoa)
80万人の中学生が学校に飽きてしまって不登校になり、そしてネットを使って起業し、ついには北海道で新しい共同体を作るという経緯を描く、村上龍の『希望の国のエクソダス』。一見この小説の話は現実から遠く離れているようだが、リアリティのあるストーリーとして評価する論説がよく見受けられる。本発表では文学作品はどのように現実を反映すべきかという問いについて考えるため、『希望の国のエクソダス』に関する評論を分析し、論者たちがなぜリアリティを感じたのか、明らかにしたい。
Thomas Ashforth (Stanford University)
東日本大震災の後、日本の原子力産業は様々な問題に直面し、政府はその安全性について再検討している。この発表では日本の原発行政における問題点を中心に、日本の政府機関と電力会社との緊密な関係が原発の安全対策にどのような影響をもたらしたか、政府や電力会社がプロパガンダを通じ、どのように地方メディアに圧力をかけてきたかについて述べる。また福島第一原発の事故後の健康問題に関するデータも紹介する。最後に、制度変革について提案したい。
(発表者の希望により、このページへの詳細の掲載は控えさせていただきます)
Elsa Chanez (University of British Columbia)
『とはずがたり』 は1307年に成立したもので二条という女性の作とされ、前半が日記文、後半が紀行文である。1938年に発見されたが、内容が事実に基づくものかどうかは明らかではない。2009年、作家奥山景布子は『恋衣 とはずがたり』という『とはずがたり』から影響を受けた小説を発表した。この小説は、二条の娘「露子」を登場させ、露子が母親の日記を通して母について知り、『とはずがたり』と名付け、後世(自分の養女)に残すという構成である。奥山の小説は「女流文学」という伝統を強調し、物語を通して作家自身が二条と繋がり、二条の人生と作家の人生の間に共鳴が起こって作品が生まれたと思わせる。本発表では、作品間、作家間の関係について検討していく。
Shoan Yin Cheung (Cornell University)
「我慢」が美学とされている日本では、月経に伴う痛みは、「当然」なことであり、我慢するしかないと以前から考えられていた。しかし、現代の女性は「PMS(月経前症候群)」という概念を認識し、その痛みを薬で改善できる症状として捉えるようになった。医療従事者によると、日本では「PMS」は近年普及したが、この発表では「PMS」という概念を再考し、「PMS」が日本のマスメディアによっても普及したことを検討したい。
Charles Cook (University of North Carolina, Chapel Hill)
東日本大震災後に、仏教者が原発に反対する活動をしたことはよく報告されている。しかし第二次世界大戦後から、仏教者と他の宗教者は非原爆の活動をしており、仏教と原子力の関係には長い歴史がある。非原爆と非原発は、決して同様の意見ではないが、歴史的な文脈からみると、日本民族の非原子力の意見を示している。更に宗教者は、原子力に反対する政治的な弁説も行っている。この研究では、原子力をめぐる仏教者の意見を考究する。
Allison Cottrell (University of Wisconsin, Milwaukee)
ポストコロニアリズムとは何か、どのようにポストコロニアリズムを美術界で位置づけるかは、現在の学界でよく議論されている。だが、この議論は美術界にどんな影響を与えているのだろうか。そしてこの議論の結果、何らかの成果が得られるのであろうか。本発表では、日本を含むアジア三ヶ国が共同開催した二つの美術企画展「アジアのキュビスム」と「アジアのリアリズム」を通して、美術におけるポストコロニアリズムはどう評価され、またこの状況がさらに改善されることがあるのかという疑問に対して回答を提示する。
Spencer Davis (Carleton College)
哲学の巨人、フリードリヒ・ニーチェ。戦後の日本で最も異彩を放つ小説家、三島由紀夫。この2人を発表で取り上げます。三島は、ニーチェを論じるにあたって注目される人物ですが、2人はどのような関係にあるのでしょうか。この発表では、ニーチェの思想と文章が三島に及ぼした影響について論じ、2人の政治学、道徳、形而上学の概念に関する理論を中心に、比較分析を試みます。空間、時間、周期性、そして道徳と現実の相対性に関する三島の特別な視点に殊に集中して発表します。
Xiaohan Du (Columbia University)
日本美術史は、近代において西洋美術史の枠組みにより構築された。しかし東アジアの書道に対応する西洋美術史の言説はなく、日本では明治の官製美術史から書道が排除された。その結果、書道に対する評価はいまだ明確ではなく、東アジア美術史に視覚資料としての書道を位置づけ、評価するという作業は進んでいない。
本発表では、1882年に小山正太郎と岡倉天心の間で行われた「書ハ美術ナラズ」という論争を中心に、明治期近代国家形成の作業の一環としての日本美術史の構築過程での書道の位置づけに関して検討する。
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Robert Fiumedora (Ohio State University)
日本における働く女性の問題は多面的であり、解決が日本全体にとって理想的であっても、できない状態である。昇進経験から見ると女性は男性より明らかに劣っている。したがって、働く女性の平均収入は男性の平均収入の5割程度に過ぎないという事実は当然のことである。社会的な要因も働く女性の労働環境を悪化させている。本発表では女性に対する「マタハラ」という現象をとりあげ、出産した女性の再就職状況について説明する。最後に日本の働く女性の労働環境の改善方法についての見解を述べる。
Sean Forte (University of Hawaii at Manoa)
1930年代初頭、心理学者レフ・ヴィゴツキーは、人間の心理発達に関する革命的な「社会文化理論」を打ち立てた。その後、弟子のピョートル・ガリペリンは、これを学習指導に応用し「概念中心教育(の理論)」を提唱した。本発表は、これら二つの理論と第二言語教育の実践に焦点を合わせて検討する。最初に、基礎となる「社会文化理論」の概要を略述する。次に「概念中心教育」について解説し、指導方法のアプローチの詳細ならびに第二言語教育における研究の具体例を紹介する。その上で「概念中心教育」のアプローチと研究に批評を加える。最後に、代替となるアプローチを提示し、今後この分野の研究がたどるべき道を示したい。
Evan Frost (Princeton University)
インターネットを介して個人が持つ遊休資本の貸出を行う「シェアリングエコノミー」事業は近年、世界各国で注目を集めており、数多くの人の生活において欠かせない存在になっている。しかし、日本ではシェアリングエコノミー事業は未だに軌道に乗ることができない。それはなぜなのだろうか、また日本のシェアリングエコノミー事業は将来どうなるのだろうか、という点に本発表は注目する。特に、今国会会期中での成立が予想される、Airbnbのようなホームシェアリングサービスを合法化する住宅宿泊事業法案(民泊新法)を例とし、日本のマーケットと規制機関がどのようにシェアリングエコノミーを左右していくのかについて説明する。
Christian Garcia (University of Michigan)
前近代より、「天狗」という妖怪が大衆文化や民俗学などに存在している。本来、仏教において、天狗は「悪の化身」として描かれ、それは僧侶しか克服できない対象とされている。しかしその後、仏教との繋がりは薄れ、「天狗」は独自の存在としての地位を得ることとなった。本発表では民俗学における「天狗」の妖怪への変化について検討する。
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Kurtis Hanlon (University of British Columbia)
平安時代から、日本においては文学、特に和歌と関連した様々な遊びやゲームがある。そもそもこのような遊びは貴族によって行われ、政治的あるいは社交的な意味を持っていたのであるが、江戸時代ごろ一部形を変えながら町人にも広まった。本発表は、歌合・歌会・曲水の宴・百人一首かるた・花札など、様々な和歌と関連している遊びを紹介し、貴族の遊戯から現在の子どもたちによって遊ばれているゲームまで、その進化の跡をたどる。
Praditya Hargianto (University of Wisconsin, Milwaukee)
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Dina Hassan (Stanford University)
1905年、大日本帝国は大方の予想に反して日露戦争で勝利を得た。そのため、多くのアフリカ系アメリカ人の黒人は、日本が有色人種の潜在的な力を見せたと考え、日本に憧れを抱くようになった。その関心を利用しようとした日本政府は、1930年代にアフリカ系アメリカ人を対象とする日本人の工作員を派遣した。日本人工作員の中で黒人社会において最も知られていたのは、研究者でもある疋田保一である。疋田は20年以上黒人居住地の中で最も有名なハーレムという街で黒人の有力者と交流し、アフリカ系アメリカ人に関する研究を行い、最終的に黒人の軍人を対象としたプロパガンダを作成した。本発表では疋田の謎多き人生について述べる。
Eli Hatch (Middlebury Institute of Int'l Studies at Monterey)
日本の高等教育機関は、少子化により経営危機に陥る可能性が高いと言われている。また、東・東南アジアの大学が国際的なランキングの上位を占め、日本の大学が留学生を獲得することが難しくなっている。この危機が乗り越えるため、日本の高等教育機関は、欧米をモデルとし、国際化を熱心に進めている。高等教育の国際化、いわゆるキャンパスの国際化では学生と教員の多様性、課程内容の国際化、国際教育交流活動を進めることが改革の中心となる。本発表では、この三点について具体的にどのようなことが行われているか、また、留学生を引きつけるために作られた英語学士課程を分析する。最後に、英語学士課程に在籍している学生へのインタビュー調査結果を示し、他国の高等教育制度も踏まえ、改革に対する提案などを示す。
Rei Izawa (University of Hawaii at Manoa)
現在、インターネットの普及に伴いソーシャルメディアの活用が世界中で増えています。これによって、企業のマーケティング戦略がテレビや新聞などの広告を中心とする従来型のマーケティングから、インターネットやソーシャルメディアを利用したデジタルマーケティングに移行する傾向があります。しかし、インターネット基盤の他、人口構成や生活様式の違いなどから、国によってその移行のテンポは異なっています。この発表では日本とアメリカを例にとって、二つの代表的なマーケティング手法、つまり従来型のマーケティングとデジタルマーケティングの違いについて述べたいと思います。
Christopher Kessler (University of Washington)
日本の刑事司法制度には、優れた点が多いにも関わらず様々な批判もある。これに対し、2014年法務省は刑事訴訟法を改正する法案を国会に提出し、2016年6月3日、その法案は国会を通った。導入された五つの主要な改革はそれぞれ異なる時期に施行される。この発表はこの五つの改革のうち、次の三つを取り上げることにする。取調べの録画、司法取引の導入、電話盗聴の改正。各改正の理由や特徴を挙げ、最後に今回の改正に対する批判にも言及する。
Tatyana Kostochka (University of Southern California)
本発表では、心理学の社会的・政治的な面を示したいと思う。最近、罪悪感と恥に関する心理的な研究が広く行われている。その研究の主流派の代表であるジュン・タンニーは、恥は攻撃性と他人を責めることに強い関係があると主張している。タンニーをはじめ、その研究の主流派によって、恥は「醜い感情」や「罪悪感の醜い妹」などと呼ばれてきた。このような主張は社会に好ましくない影響を与えかねない。例えば、恥の文化として考えられている日本文化のイメージをも変えることになるだろう。本発表では、タンニーらの主張を検討し、その社会的な影響を含めて考察する。
Michael Levine (University of Colorado, Boulder)
90年代から民俗学者・赤坂憲雄はその分野の樹立者である柳田国男に異議を唱え、「東北学」を提唱してきた。赤坂によると、柳田は常民の稲作を中心とした「瑞穂の国」という観念に呪縛され、単一種族・文化の「ひとつの日本」を主張したという。それに対し、赤坂は伝承や歴史、考古学的な分析などを取り入れながら東北の人からの聞き書きを行い、「稲作以前」の東北を掘り起こそうとしている。そして、東北が日本の多様性の例であり、「いくつもの日本」への第一歩であると主張している。本発表では、赤坂がどのように柳田の思想を解釈するか、どのような方法を用いるかを紹介し、最後になぜ東北学が大切かを話したい。
Aiqi Liu (University of Iowa)
本発表は主に三つの部分から構成される。まず第一に日露戦争後の日中間交渉の歴史的背景について説明する。日露戦争は日本とロシアとの戦争だが、その原因は中国の満州地方に於ける利権である。そのため、戦後の日露講和条約だけではなく、日中間の交渉も日露戦争前後の歴史状況の把握には重要である。次に、日中交渉の会議記録を分析する。これは本発表の中心部分をなすが、日中それぞれの具体的な条項の目的とそのすり合わせの様子、さらに交渉の焦点について述べる。そして、最後に本発表の内容をまとめつつ、今後の研究の方向を示す。
Takuya Maeda (Emory University)
2014年、米国カリフォルニア州グレンデール市に「慰安婦像」が設置されて以降、日本のマスコミには現地の人々の意図やアメリカ社会の反応について誤報と誤解が溢れている。この感情的な環境では相互理解と和解への道がさらに見えにくくなっている。本発表では現地の「慰安婦像」設置関係者の考えを整理し、保守系日本人とともに反対抗議や訴訟を起す在米日本人、そして像の設置を求める団体と連帯しながら日本側を批判する日系アメリカ人、この二つの団体の組織化と対立を検討する。
Casey Martin (University of California, Los Angeles)
堀田善衛という作家について発表する。1918年に生まれ、1998年までの53年間、つまり戦前から終戦を経て戦後の時代までを生きた作家である。堀田は1945年3月10日、東京大空襲直後の焼け野原の中で、視察に来た天皇陛下を偶然見かける。当時天皇陛下は日本の現人神であった。堀田はその日のことを1971年の『方丈記私記』という作品の中に書いている。堀田の天皇観とはどのようなものだったのだろうか。堀田の考える新しい日本とはどんなものだったのだろうか。考えてみたいと思う。
Edward Massie Eisner (University of Hawaii at Manoa)
芥川龍之助はモダニズムの作家とされている。しかし、彼の有名な作品である『羅生門』は、ナチュラリズムに特徴的な概念を取り入れていると考える。ナチュラリズムの作家は作品を実験室に見立て、社会および物理的環境が人間の性格と意思決定にどのように影響するかを実験している。芥川は『羅生門』でこのテーマを扱い、人間の道徳観と非道徳的な選択の論理を構築したことが分かる。本発表では、『羅生門』の文章と場面はモダニズムの作品であるが、テーマはナチュラリズムの作品であるとすれば、強力な外的環境に直面した際の人間の選択の本質を明らかにするものであると主張する。
Kathleen McCabe (McGill University)
1947年5月、新たな日本国憲法が施行された。ドイツとイタリアの新憲法と類似していて、日本の憲法、特に第9条は公式的に武力を国際紛争の解決手段とすることを放棄した。第2次世界大戦の後、平和主義と反核主義は日本社会に受け入れられてきたと言える。しかも、日本政府の公式的な方針として見られてきた。しかし、第9条が永久に続くことへの反論がないというわけではない。近年では、特に安倍政権は憲法第9条を改正して、自衛隊の軍事力に関する権利を復するべきだという議論を提案している。国会での賛成不足によって、安倍首相の活動は成功に結び付かなかった。そのかわり、憲法第9条を再解釈した政策を目指している。本発表では、その再解釈について説明する。
Francesca Pizarro (University of Hawaii at Manoa)
少女雑誌『少女世界』の1910年9月号は、いわゆる朝鮮合併(1910年8月29日)を様々な記事で取り上げ、この歴史的事件に対する読者の見方に影響を与えようとした。特に主筆巌谷小波による小論「大波小波」は、読者に対し、新たに合併した朝鮮とはどのような国であり、どのような姿勢で朝鮮と接するべきかを説いている。本発表では、朝鮮を「女性的」で「不幸な妹」として見なすことで、巌谷が日本の少女に新たな役割と誇りを与えたことを主張する。そしてその議論を通じ、「少女」と「少女の世界」という概念の国家的な側面を浮き彫りにする。
Camille Priebe (Willamette University)
毎年、世界経済フォーラムが「世界男女格差指数」というレポートを公表している。同指数は、男女格差を計測するため、144ヶ国の、健康、教育、経済、政治の四つの分野を検討した上で算出されたものである。2006年から、日本の総合的なスコアが非常に低く、過去10年間変化が余りない。本発表では、2016年のレポートの結果を発表し、それを分析したいと思う。レポートは完璧なものではないが、弱点を指摘する上で、将来どのように進むべきかを方向づけてくれるものである。現在、日本ではどのような男女格差に対する対策があり、為政者は何を考えるべきなのだろうか。そして、これから、社会は何を変える必要があるのだろうか。
Huiyong Qiu (University of British Columbia)
グローバル資本主義の進展及び情報通信技術の進化とともに、ピラミッド的に集中していた権力と情報が拡散しつつある。こうした現代社会においては、かつて誰もが受け入れていた絶対正義(「ビッグ・ブラザー」的存在)はもはや機能しなくなり、その代わりに複数の正義がこの世界に出現し、お互いに影響し合うことで一つ巨大なシステムになったと解釈されている。この新たな社会的構図が具体的にどのような形で大衆文化の世界に反映されているかを巡って、近年の人気漫画『ワンパンマン』を取り上げ、その世界に乱立しているヒーロー像を解読する。
Alyeska Robbins (Oxford University)
ロボットの技術、例えばソフトバンクのペッパー等は、まだ初期段階にあるものの、すでに日本の社会に受け入れられている。この発表では、なぜロボットは米国に比べ、東アジア(例えば、韓国と日本)で社会的適応力があるのかということについて仮説を立てる。そのために、まずロボットの意味を定義し、日本のロボットについて説明する。次に、ロボットに対する日本と欧米の考え方を比べる。そして、東アジアと日本で、また将来おそらく欧米でも、ロボットは脅威としてではなく、人間との東洋的な友好関係が築けるということを主張する。
Xavier Sawada (Dartmouth College)
日本の初めてのラジオ放送は東京放送局により1925年に行なわれ、一般の人々の情報の受け入れ方と娯楽に大きな変化をもたらした。本発表ではラジオ草創期に小説家、または脚本家が音声のみの媒体を通して、いかに物語を作り始めたかを検討する。その一例として、1927年11月に放送された岸田国士のドラマ「ガンバハル氏の実験」を取り上げ、ラジオの可能性と当時の科学意識がどう取り込まれているかという点に注目する。
Ajjana Thairungroj (Harvard University)
本発表は、多和田葉子の小説『犬婿入り』における空間と異類の関係を対象として、その内容を検討していく。そして、「共同体」と「異類」の境界の間に、どう空間的な交渉、あるいは交流が行われているのか、という問いを取り上げる。多和田が、説話的な形態を保持しながらも、物語の内容を覆すことにより、小説に特定の空間性を与えず、「中間的な空間」を作り上げていると主張したい。
Karin Tompkins (University of Michigan)
本日の発表では修士論文の研究について発表します。なぜ日本語を勉強し始めたのか、世代によって日本語学習者の学習動機づけは違っているのか、そして上級レベルまで上達する学習者はどのようにその学習動機を維持するのか、という問について検討しています。この発表ではアメリカ・カナダ大学連合日本研究センターで行ったアンケートやインタビューで得たデータについて話したいと思います。
Lauren Toppin (University of North Carolina, Chapel Hill)
吃音障害、つまりどもりとはどのような病気でしょうか。世界中には吃音症のある人が多く、この病気は生活の質に深く影響を与えます。さらに、この病気の症状がよく知られていない上に、治療の制度が不足しています。そこで、この発表では、まず吃音症のある者の立場から、私の個人的な体験についてお話します。それから、吃音症とはどのような障害であるか、そして、最後に日本ではどのような現状があるのか、といった順で進みたいと思います。
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Nicholas Tsai (University of Texas at Austin)
日本国内経済成長が低迷する中、日本企業は海外の市場に焦点を移している。成長への近道であり、グローバルでの存在感を高めることのできる手段として、海外における企業買収によるグローバル進出が加速化している。ところが、日本企業は競争的なM&A過程で劣後してしまい、海外対象企業を買収した数年後でも、そもそも目指していた目的を達成できないことが多い。その理由の一つとして、対象企業の拠点や形式により買収の交渉戦略や取引の方式が大きく異なり、非常に複雑になり得ることがあげられる。そこで、米国の公開企業と非公開会社の買収について、それらを対照しながら簡潔に説明をし、その相違からもたらされる交渉上の注意点を紹介する。
Yatong Wang (University of California, Santa Barbara)
2016年に日本で社会現象を巻き起こした新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』は中国でも異例の大ヒットとなった。本発表では、中国のレビューサイト「豆瓣映画」における『君の名は。』の受容について簡単にまとめてみたい。12月2日の中国公開日を基準にして、「豆瓣」の一部の長文レビューを「公開前」と「公開後3日間」とに分け、その内容を「映像」、「物語」、「音楽」などの要素に分類し、分析を行った。その結果、「映像」と「音楽」は圧倒的に好評であるのに対し、「物語」の整合性と「恋愛展開」の正当性に関しては、評価が二極化していることが明らかになった。
Lisa Wilcut (Stanford University)
最近大和言葉が注目を集めている。大和言葉は『万葉集』や『小倉百人一首』など古典文学で使われた日本語だが、現在の日常でも使いこなすというブームが起こっている。高橋こうじが書いた『日本の大和言葉を美しく話す』が2014年に出版されて以来、大和言葉に関して20冊以上の本が出版されており、新聞や雑誌やテレビでも大和言葉が取り上げられている。本発表では大和言葉を説明し、そして愛好者の方々の意見をもとに、大和言葉の 様々な特徴や使用について紹介する。
Alexandra Wiltsie (University of California, Riverside)
朝鮮人作家金史良(キム・サリャン)は、1914年、大日本帝国占領下の朝鮮に生まれ、1950年、朝鮮戦争下で行方不明になるまで活躍した。金は日本語を母語としていたが、帝国に流布していた様々な思想を対象にし、特に近代化、植民地主義、民族主義を批判した。1940年、文学雑誌『文芸首都』に掲載された『草深し』という短編小説の中で、金はこの三つの力を分析している。また、登場人物間の関係を通じて、これらの力が必然的にもたらす相互作用も強調している。本発表では『草深し』に見られる近代化、植民地主義、民族主義に対する抵抗を分析し、金が示唆したこの三要素の間の共犯関係も検討したい。
Anibal Yanez (Dartmouth College)
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Serena Yang (University of California, Davis)
1960年代初頭、実験音楽作曲家ジョン・ケージが日本に紹介され、戦後日本の音楽シーンに衝撃を与えた。日本人作曲家はケージの東洋の精神を汲み偶然性に基づく音楽観を受け入れるか否か、自己の主体をどう確立するかという問題に直面した。ケージは、非西洋文化を再文脈化し、新たな美的概念の戦略を打ち立てたが、戦後日本人の作曲家も同様、自文化の歴史遺産とアイデンティティを乗り越える「超克論」を提示した。小杉武久は日本の伝統音楽を拒否し、五感を総動員しながら演奏空間のリアリティを巧みに利用する即興演奏を探求した。本発表では、ケージの音楽イデオロギーに対する日本の作曲家の様々な反応を取り上げ、彼らがケージの哲学を乗り越えるだけではなく、自身の音楽哲学を国際的な前衛音楽の枠組みに位置付けようとした過程に触れる.
Keely Zabonik (University of Hawaii at Manoa)
近代言語学というのは比較的新しい分野であり、したがって様々な関心の領域はまだ詳しく研究されていない。第二言語学習の研究においても、発音、とくに発音の教授法とストラテジー研究が充分であるとは言えない。近年、研究と教育を結びつける目的で、CALL(コンピューター支援言語学習)の技術が注目されている。本発表では、なぜ発音が重要か、英語話者が日本語を発音する際に直面する問題点を指摘し、先行研究に触れ、最後に私の研究課題を提示する。