2017-2018年度 卒業発表会内容紹介

日本とインドネシアの木材をめぐる関係

Bailey Albrecht (University of Wisconsin-Madison)

日本の自然環境の美しさは国際的に知られている。一方、インドネシアの森林破壊は深刻な問題となっている。しかし、実は、日本の美しい森林とインドネシアの伐採で荒れた森林とは強い関係がある。両国の森林状況は戦後から始まった木材貿易を通じて生み出されたと言ってもよい。インドネシアから木材を輸入したこともあり、日本は経済成長を追求しながら国内の森林を維持できた。他方、インドネシアは木材輸出の投資と利益で発展できたが、森林破壊が進んでいった。この例に焦点をあて、本発表では現在さらに深刻になっている地球温暖化や環境問題を考える際、環境と経済の歴史的な関係、外交関係、国内政治など多角的な視点が必要であることを論じる。また、これからの環境保護の可能性についても考えたい。

江戸時代の「被虜人」と対朝鮮観 ―朝鮮人捕虜の位置づけ―

Jason Alexander (Colgate University)

秀吉による朝鮮侵攻に引き続く江戸時代の日朝関係を検討する際、自らの意志で来日した朝鮮通信使はよく注目を集めている。しかし、戦役中に半島から連行された数万人の朝鮮人捕虜、いわゆる「被虜人」も、日本社会の対朝鮮観の変遷に影響を及ぼした。九州等の地域に定住した被虜人はその出自や技能によって様々な待遇を受け、時代の下るに従い、子孫を残し日本社会にある程度同化した。本発表では被虜人や子孫の人生を検討することで、当時の日本社会における朝鮮に対する意識を考察する。彼らの来歴と苦痛は住んでいた地域や所属していた階層によって差はあるが、いずれにせよ、次第に日本人の意識から薄れていき、朝鮮に対する蔑視観が再び浮上してきたと言える。

「美しい他人」―日本におけるロシア系ファッションモデル―

Liubov Ampleva (SOAS, University of London)

本発表では、現代の日本の女性雑誌に見られるロシア系白人ファッションモデルのイメージを分析する。具体的には、イメージの生産と消費の両方の点から分析することで、どのように世界で思想と人間が影響しあって移動しているかの分析を試みる。この発表では二つの点に注目する。一つは、現代日本におけるグロバーリゼーションと消費の概念に焦点をあて、グローバルな美の理想が日本女性のアイデンティティー構築に及ぼす影響を検討する。二つ目は、その生産された日本の美の理想を取り巻く概念が、国境を超えた若い女性の動き、とりわけロシアから日本への移動にどのように影響するかを考察する。

インドにおける女子教育の試み 

Nitin Bajpai (University of Wisconsin-Madison)

北インドのある州における性的差別の一つは、農村部の人たちの女子教育に対する姿勢である。娘は将来結婚するので、教育の必要はないという考え方が一般的だ。この問題は何世代にもわたって続いてきた。この状況に対して2000年に教育施設「パルダダ、パルダディ」が設立された。小さなクラスから始まり、今では1300人の女子が教育を受けている。卒業生の多くはさらに上級の教育を受け、都市でよい仕事を得ている。農村部に残った卒業生も、自分で小規模な仕事をして人生を生産的に生きている。最も重要なことは、彼女たちが自分の子どもを絶対学校に行かせるということだ。このようにして女子教育の悪循環を絶つことができるという一例をご紹介する。

在日韓国人と沖縄人に対する日本の態度 ―大衆文化を通して―

Arielle Busetto (University of St Andrews)

20世紀日本帝国はどんどん広がり、台湾、韓国、沖縄に加え、第二次世界大戦時にはビルマやフィリピンなども支配し、とても広い影響を与えた。従来、韓国と沖縄における政治的、あるいは法律的影響についてよく指摘されている。しかし、政治的な分析だけでは、植民地の日常生活の複雑さを無視することになる。この発表では、内田じゅんと玉野井麻利子の定義に従い, 小説を通じて植民地人のサバルタンとしてのアイデンティティーを指摘したい。

「こんにちは Y'all!」アメリカ南部と日本の結び付き

Jennifer Butler (University of Sheffield)

本発表では、アメリカ南部と日本の結びつき、特に経済、文化、人的交流の関係に焦点を当てて検討する。まず背景となるアメリカ南部の概要を紹介し、次にアメリカ南部と日本の三つの分野(経済・文化・人的交流)の結びつきを紹介する。また、テネシー州とミシシッピ州政府の日本事務所代表へのインタビューから得た情報を基に、日米の経済関係を更に発展させる方法、そして、文化的・人的交流の具体例を示す。最後に、日米関係において、このアメリカ南部と日本のユニークな関係がなぜ重要なのか、そしてなぜ日米の相互理解と関係強化を牽引するのか検討したいと思う。

日本の指紋押捺制度 ―必要なテロ防止対策かあるいは人権侵害か?―

Minsun Cha (Yale University)

本発表では日本の入国管理法に含まれるいわゆる指紋押捺制度の歴史を紹介し、外国人のみに対して実行されている指紋押捺の差別的な要素をめぐる議論を分析する。まず、現在の状態になるまでにどのような反対運動や変化があったか簡単に説明した上で、日本の制度の基となった米国のUS-VISIT (訪問者と移民のステータス・インジケータ技術)プログラムと比較し、最後に指紋押捺制度に対する批判や評価に言及する。

1920年代の日本の農民運動とその国際的側面

Harlan Chambers (Columbia University)

日本の近代化による社会の変化は農村よりも先ずは都市部に現れる。産業の構造や政治形態などの変革が明確に見て取れるのは都市部が先であり、それに比べて農村はかなり遅れた状態であった。しかし、1920代後半様々な政治活動家が農村の改革こそ日本の未来を変えると考え、農村に入って反帝国主義や反資本主義の運動を展開しようとした。今発表ではその農村を根本的に変えようとしたその運動の国際的な側面に焦点を当て、日本の活動家が同時期の中国農村部における共産党の革命運動から影響を受けたことについて述べることとする。そして、この時期の日本の農民運動が、人間の解放を目指す国際的な動きを視野に入れてのものであったことを論じる。

国字問題 ―戦後漢字制限論の変遷―

Ryan Chancoco (University of Florida)

明治維新以来、外来の書記法である漢字の現代語における役割について国語政策立案者の間には様々な意見があった。現代日本語の表記法として適切であるかどうかという議論は20世紀を通じて盛んに行われた。漢字を使い続ける場合は、何万個もある漢字から、日常的文章、法律文、教科書等に相応しいものをどのように取捨選択すべきかという問題を解決しなければならない。この発表は20世紀における漢字使用についての政策及び思想を説明し、「常用漢字表」への道のりを辿るものである。

婦人服と戦争 ―女性誌の表紙に現れるファッション― (1930-1945)

Yu-Ning Chen (Washington University in St. Louis)

本発表では女性誌の表紙を中心に近代日本の婦人服及び戦争の影響について検討する。まず、近代日本におけるファッションを簡単に紹介し、次に、戦争が女性のファッションに与えた影響、特に1930年代のことを説明する。30年代以降、検閲や出版検査が強化され、多数の出版社も経営存続のため国策を支援せざるを得なかった。そのため、実際のファッションと女性誌に掲載されているファッションは一致しなかった。最後に、戦時中の出版物における婦人服と実際のファッションを比較し、幾つかの事例を挙げ、着物は紙面上だけの流行という現象を説明する。

神聖化の装置としての「東照大権現縁起」

Ian Cipperly (University of Chicago)

いわゆる近世日本は太平の世と呼ばれるが、その平和を維持する方策として日光東照宮があり、その一例として東照大権現縁起がある。この絵巻物は第三代将軍家光が家康を神聖化することによって幕府の正統性を強めようと試みたものである。その目的を果たすためこの縁起は画像と文で以下の三点を知らしめた。まず、家康を天から授かった子としていること。次に、家康は死後邦土を守るために東照大権現鎮守になったこと。最後に、東照大権現の権力は神聖で外国の使節さえ家康を崇拝してきたこと。このように家光の東照宮に対する態度は神聖化という方向性が明確なものであった。すなわち東照大権現縁起は邦土を神聖化する機能を有したものであった。

武道における「気」―多様にして多義なるもの―

Brendan Craine (University of Colorado Boulder)

普遍的な活力を指す「気」という概念は、日本文化や日本語に多面的に反映する。「気」は様々な呼称で表現され、例えば13世紀にさかのぼる調息を巡る禅学の文献においては抽象的なことも具体的なことも指すが、現代に至っても「気」は依然として正確に定義しがたく、存在を客観的に証明するデータがほとんど無い。それにもかかわらず伝統的武道と共に広範多岐に研究されている。自分と相手の間に流し合う「気」を中心にして、「気」の多様な解釈、定義を調査して武道の観点から「気」を明確化したい。

絶対に人を殺してはいけないか

Diana Dao (Pomona College)

どこまで本気であるかは別として、我々の人間は皆一瞬でも誰かを殺したいと思ったことがあるのではないだろうか。しかし、普通はただ思うだけで、実際に殺人を犯してしまうということは非常に珍しいのである。なぜ我々は行動に移す前に思いとどまるのだろうか。本発表では、「絶対に人を殺してはいけないか」という問題を提起する。様々な観点から考えてみると、確信が揺らいでくるはずだ。では、いったいどういう場合であれば「人を殺してもよい」といえるだろうか。

具現化された思い出の帰郷 ―第二次世界大戦後の日本兵遺品返還について―

Alexandra De Leon (Northwestern University)

第二次世界大戦中、連合軍側が数千の日本兵戦没者の遺品を記念品として自国に持ち帰った。1960年代から元連合国と日本の両側で、個人と組織によって日本の遺族に遺品を返す運動が行われてきた。この発表ではまず、元連合国と日本におけるこの遺品の歴史的・文化的な意義の違いを比較する。次に、遺品返還運動が70年間でどのように進展してきたか、そしてこれが日本の新聞などのメディアでどのように報じられてきたを考察する。最後に、これらの遺品が戦争の個人的な思い出と、総合的戦争の記憶にどのような影響を与えたかを論考する。

外国語の教室における言語不安

Nicole De Los Reyes (The College of New Jersey)

外国語学習者にとって、一番大事なことは、外国語の教室において間違った発話でも気にせずアウトプットすることであるが、多数の学生は「言語不安」を感じるとされている。どのような外国語であっても習得するためには、目的言語でのスピーキング練習は重要である。しかしながら、学習者も教師も外国語を話すことに対する「言語不安」が大きな障害であると見なしている。

 本発表では、外国語学習に対する言語不安を定義し、アメリカ人の日本語学習者における言語不安の先行研究と言語不安を抱えている今年のセンターの学生の経験について論じる。最後に、外国語の教師が学生達の不安感の克服をどう支援するべきかについても述べる。

現代宗教の適用戦略 ―実用的な仏教の伝統―

Anh Tu Duong (University of Oregon)

宗教の適応戦略に対する主な批判は、宗教組織がマーケティング戦略を利用し、信者ではなく「消費者」にアピールするという点にある。西洋でのマインドフルネスも仏教の適応戦略としてしばしば批判を受ける。しかし、世界中に仏教を広めるために、対象とする文化の思想の枠組みに仏教の教義を適用する という「実用的な」仏教運動がある。西洋でのマインドフルネスなどのいわゆる宗教の適応戦略は、実用的な仏教の原理原則に沿ったものであると言える。

Eスポーツと日本

Sarah Enders (University of Oklahoma)

Eスポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、電子機器を使った対戦型のゲーム競技である。体を使うスポーツと同じような面白さや対抗意識があり、同好のコミュニティーを通じて世界中の人々と交友関係を築くこともできる。世界的な収益は2020年までに10億ドルに上ると見込まれるが、電子ゲーム立国であるはずの日本はこの分野で大きく立ち遅れている。この発表では、まずEスポーツの概要を説明し、日本における制約や影響を考察したうえ、今後この市場を拡大するために日本政府がなすべき改善策を提言する。

俊成卿女の和歌に見る本歌取りへの態度

Eric Esteban (Yale University)

本発表は、本歌取を焦点として和歌創作の輪郭を示そうと試みる。本歌取とは、典拠の明確な古歌(本歌)の一部を取り上げて本歌との関連性が明白である新たな歌を詠む技法である。こうした技法を用いた歌人の「身ぶり」は12世紀の歌論書に本格的に取り上げられ、いわゆる「新古今時代」の和歌の創作はもはや単なる自発的な感情の表現ではないとされている。むしろ歌人は歌合などの「公共の場で評価される」新歌を求められる圧力を感じたのではないだろうか。ある歌論書に記述された俊成卿女の描写はこの圧力を語る。本発表では、「本歌取りの上手」と評価されていた俊成卿女の和歌一首を取り上げ、その発想の由来をたどり、最後に本歌取によってもたらされた和歌の触媒としての働きを考察する。

ニートを解決するための政策と実際のギャップ ―マンガ「ReLIFE」における解決方法―

Ken Ezaki (University of Oregon)

ニートとは教育を受けていない、仕事もしていない、また仕事に就くための訓練も受けていない人々のことである。世間の人々による圧力がかかりすぎれば、ニートは現実社会での生活を諦める。政府はニート問題を解決するために、政策を作ろうとしたが解決には至らなかった。そのため、ニートは現実の社会で生きることを諦め、幻想的な社会に移り住みたいと考え、漫画やアニメやテレビゲームなどの二次元文化において行動をしている。ニートは、政府や社会からは支援が受けられないと思っているが、漫画の中では自分の理想的な社会を発見できるようである。本発表では現実の社会と幻想的な社会の解決方法を比較したいと思う。

「渋谷らしさ」とは

Marlowe Gardiner-Heslin (McGill University)

「8/」は渋谷ヒカリエの8階にあり、ギャラリー、ショップ、シェアオフィス、カフェがそろう空間である。その目的は「クリエイションが混ざり合い新しさを生むスタイル」、特に「渋谷らしいこと」を養うことだと壁に書かれている。東急電鉄の大規模な「都市再生」計画の第一段階として、「8/」は渋谷の創造性を表そうとしている。しかし、単純な質問も出てくる。「渋谷らしさとは何だろうか」。

本発表では、渋谷的なファションや音楽が生みだされた1970年代から2000年代に焦点をあて、その歴史と文化を説明する。ただ単に「渋谷らしいこと」を探すのではなく、渋谷が変化し続ける意味と、それが東京の変化とどのような関係があるのかを概観するつもりである。

日本におけるコーポレートガバナンス改革の展望

Benjamin Garton (Johns Hopkins University, SAIS)

ここ数年、日本では不正会計やデータ改ざんなどによって企業のイメージが悪化している。こういったことから日本政府と企業は、日本型のコーポレートガバナンスの見直しに迫られている。コーポレートガバナンス、つまり企業経営の規律付け、が確立していれば企業資本の有効利用ができ、リスクも最小限に抑えられる可能性が高まるからである。本発表では、アメリカ型と日本型のコーポレートガバナンスの違いを紹介し、日本における政府主導のコーポレートガバナンス改革を取り上げ、コーポレートガバナンスの将来像について考える。

日英同時通訳におけるストラテジー

Josh Goldberger (The Middlebury Institute of Int'l Studies)

日英同時通訳という作業には様々な要素が関わるが、日本語と英語の言語的構造の性質が非常に異なるので言葉を転換するための構造的な手法が特に重要になってくる。そのため、主語を変えたり、品詞あるいは語順を調整したりという多様なストラテジーが採用されている。実践の視点から、どのように日英双方向の同時通訳を円滑に行うのかを紹介する。

ポカヨケと特許

H. Mitchell Green (Brigham Young University)

ポカヨケは、「間違いを防ぐ」という意味の日本語の用語で、英語では「フール・プルーフ」と訳されることがよくある。 1960年代にトヨタで開発された生産管理手法の一環であり、製造工程で人間が偶然起こす誤謬の数を減らすために考案された。 この用語は、最近、英語の特許の分野でも使用されるようになり、本来の意味ばかりではなく、さらに行動の形成と誤解防止の概念としても意味が拡張している。「ポカヨケ」という言葉は英語でもそのまま「pokayoke」として使われている。英語の中で日本語がなぜそのまま使われるのか、この発表ではその理由について考察する。

非合理的な人間の決定方法 ―経済理論と日常生活を繋げる試み―

Maksym Grinenko (Heidelberg University)

「経済学」は商品とサービスの生産・分配・消費について考える分野だと言われている。その主人公は、アダム・スミスを中心とした古典経済学では「ホモ・エコノミカス(経済人)」、つまり合理的な考え方をし、自分の利益の最大化を行動の基準とする人間である。しかし、現実にこのような人間はいるだろうか。本発表では、ノーベル賞受賞者のロナルド・コースとハーバート・アレクサンダー・サイモンの「取引コスト」と「限定合理性」という理論を用い、伝統的な経済学理論の限界を指摘し、企業や個人の決定要因について考える。

サイバーセキュリティと政策 ―日本年金機構情報漏洩の検証―

Austin Guffy (American University)

日本年金機構の漏洩事件では、何千人もの年金受給者の記録が盗まれた。そして、この事件は、政府機関、重要なインフラ、および民間部門へのサイバー攻撃に対する脆弱性を見せつけた。多数のセキュリティサービスが存在するが、現代社会にとって不可欠なデーターシステムの完全性を維持するためには、徹底的な政策立案を実現することが何よりも重要であると言われている。 この発表では、日本年金機構の漏洩事件 におけるセキュリティプロトコルの失敗に注目し、日本のサイバーセキュリティ政策に改善の必要性がまだあることを指摘したい。

北国浪漫 ―日本文化人の満州の印象 (1909-1942)―

Ying Guo (University of British Columbia)

日露戦争に勝利した日本は、1906年以降、中国東北部に進出し、そこに南満州鉄道会社から「満洲国」に至る、 経済的組織、政治的組織を作り上げた。徐々に拡大された政治的な版図は、二十世紀前半の日本文化人の前に、未知の魅力に溢れた新世界の窓を開いていた。作家夏目漱石は友人に誘われて満洲に行き、「曠野万里」の自然、「汚い」クーリーを冷ややかに眺めた。新興満洲都市大連に住んだ安西冬衛は溢れる想像力を発揮し、モダニズム詩人として文壇に登場した。左翼運動に敗れた映画理論家岩崎昶は満洲国の首都で日本人と満洲女性の恋愛物語を制作した。本発表は彼らの三つの作品を例として、20世紀半ばの日本文化人が満洲に抱いた印象について検討する。

人形浄瑠璃の根本的テーマ ―心中―

Walter Hare (Washington University in St. Louis)

日本の人形遣いには1000年にわたる歴史がある。人形遣いには箱回しや二人遣いなど種類は多くあるが、最も人気が高いものは人形浄瑠璃、つまり文楽、である。脚本家・近松門左衛門の貢献により人形浄瑠璃は17世紀の前半、日本で初めての中流の人々向けエンターテインメントになり、現在にいたっても演じられている。そして、浄瑠璃の芝居の中でもっとも長期にわたり演じられているテーマは心中だ。浄瑠璃の心中は当時の事実に基づきドラマ化されたもので、江戸時代の観客を魅了したにとどまらず、何百年の後の現代でも観衆を魅了している。この発表では、浄瑠璃の歴史的概略、人形の操作、そして心中という基本的なジャンルを簡単に説明する。

アンテナショップとエスニックスーパー ―情報発信・ビジネス・異文化体験の側面から―

Nicole Hasbum (University of Tokyo)

従来の観光研究では、異なるコミュニティの類似点や、それが観光や文化アイデンティティにどのように関わっているかの理解に焦点が当てられることは、ほぼないに等しかった。アンテナショップは、大都市圏の店舗で地域の商品を宣伝し販売する、いわば観光の一部である。本発表ではアンテナショップの定義、歴史、そして日本の田舎での観光が遂げた変容について検討する。その上で、カナダのエスニックスーパーと日本のアンテナショップの類似点を指摘する。

哲学者と戦争協力 ―西田幾多郎の「世界新秩序の原理」―

Joseph Henares (Ohio State University)

哲学者の西田幾多郎が1943年に書いた『世界新秩序の原理』は国策研究会の求めに応じたもので、東条英機首相に影響を与えた。そのことから西田の行為を戦争協力と批判する声があるが、それがどの程度のものだったのか、本発表で検証してみたい。まず、西田の『世界新秩序の原理』の背景を説明する。次に西田の文章の世界主義的な部分と国家主義的な部分を紹介する。続いて、社会学者の田辺寿利が書いた『世界新秩序の原理』を紹介し、西田のオリジナルとの違いを分析する。この田辺版は東条英機に渡されたが、東条の議会演説及び大東亜会議に与えた影響についても論じる。最後に、西田の戦争協力の程度について述べることとする。

「固有の領土」論をどう捉えるか ―日本の領土政策の問題点―

Christopher Hester (The Middlebury Institute of Int'l Studies)

「固有の領土」論は自らの領土主権・管轄権を正当化するために日本政府によって使われている。比較的に抽象的な歴史認識と外交方針が含まれ、国境問題に対して政府の公式見解を強めるための戦略的な概念だとされている。一方で、長年日本政府は「固有の領土」という言葉を使うことに対して海外からも国内からも批判を浴びている。また、最近では国際政治・国境学の学者によって、複数の国が当事者となっている空間において「固有の領土」という曖昧で不明な概念をどのように捉えればいいのかという議論が活発に行われている。本発表では、先行研究をいくつか取り上げ、「固有の領土」論はどのように構築されたのか、説得力を持っているのか、そしてこの概念にはどのような重要性があるのかについて分析・検証した結果を述べることとする。

今村昌平の映画 ―人間のはかり知れない可能性と不思議―

David Hogue (University of Chicago)

戦後に活躍した今村昌平は二十世紀の最も著名な日本の映画監督の一人である。今村によると、彼が撮った映画は「社会の最下層に暮らす無名の人間」を主人公にし、そのような「逆境におかれた」人物の「やけくそのバイタリティを発揮し生き抜く姿」を通して、「人間のはかり知れない可能性と不思議」を表す。本発表は1981年に公開された今村の監督作品『ええじゃないか』を取り上げ、この映画において、彼のいう「人間のはかり知れない可能性と不思議」はどのように表れるかを検討する。

オブジェの思想 ―戦後日本の前衛と前衛の歴史的認識―

Stephanie Hohlios (University of California, Berkeley)

(本人の希望により、このページへの発表内容の掲載は控えさせていただきます)

基地の「犠牲」―理論と実例―

Chu-Wen Hsieh (University of North Carolina at Chapel Hill)

本発表では、人類学の視点から基地研究と沖縄の新聞によく見られる「犠牲」という言葉についての理論を簡潔に紹介し、在日米軍基地を実例として取り上げる。豚・山羊などを屠って供える「動物供犠」という儀礼を通し、人類学的に考察する際に重要となるのが「犠牲」というモチーフだ。そこでは、犠牲にする者、犠牲にされる者・犠牲になる者の位置及びお互いの関係についての分析が求められる。この発表は、このような関係性に注目し、従来の「基地の犠牲」とは何かという問いを通して、改めて在日米軍の歴史と構造など実態を考察する。

ナミ ―LGBTの大学生の連絡アプリ―

Aileen Huang.A (Yale University)

世界中で、同性愛者やトランスジェンダーの人といった、いわゆるLGBTの人がカミングアウトをすることが大幅に増えている。にもかかわらず、現在の日本における同性愛は大多数の日本人に理解されているとは言い難い。LGBTの学生は虐められたりすることが少なくなく、自殺率も非常に高い。ナミというアプリはLGBTの学生たちがお互いに交流できるようにするものである。このアプリはLGBTの学生たちが寂しさを感じず、そして安心感を持てるように作られているのである。本発表では、このナミというアプリを紹介する。

儀式化された領土問題 ―「竹島の日」と日本人の政治意識―

Pi-Cheng Huang.P (University of Virginia)

今年で13回目となる領土式典「竹島の日」は、毎年韓国の抗議を招いているが、この式典は日本人にどのような影響を与えているのだろうか。本発表では、領土問題の中で繰り返された非友好的な行為を「儀式化された」行為と定義し、日本人の竹島問題に対する政治的意識の現状を紹介する。儀式化という概念を理解しやすくするために、冷戦時の東アジア国際関係における一つの例も挙げる。最後に、竹島の日における儀式化による政治的効果を測定するために、3月にあるサーベイ実験を行った。その実験の結果と、今後取り組むべき研究課題についても述べる。

移住者に対するアメリカ占領軍の姿勢と政策

Isadora Jaffee (Oberlin College)

現代日本では、少子高齢化のため、外国人労働者やいわゆる移民の問題が注目されている。しかし、戦後の連合国とアメリカによる占領が、日本国内外への移住者に対する姿勢や政策にどのような影響を与えたかという点は、検討されることが少ないようだ。冷戦下の状況で、特にアメリカは自分の安全を守るために政策を立てた。例えば、戦後日本国内から韓国に送還された韓国人は、帰国時に千円しか持ち出せず、帰国後の生活が困難だったため、日本に戻った人が数多くいたが、彼らは不法入国者として扱われ収容所に収容された。占領軍のこのような厳しい対処が先例になって、その後の移住者に対する法律に大きな影響を与えたと考えられる。

姿を変える女 ―江戸木版画における変身の記号学―

Susie Kim (Columbia University)

1889年から1892年にわたって刊行された「新形三十六怪撰」は月岡芳年の妖怪画の集大成と評価される。その中の一枚に、「四谷怪談」のお岩を描写した作品がある。夫の田宮伊右衛門に無残に殺害された後、幽霊に化して復讐を果たすお岩は、この版画では興味深くも布団の上に横になって子供に乳を含ませている平凡な母親の姿に描かれている。しかし、復讐の鬼となるお岩の成れの果てと、潜在するその「鬼性」は屏風の上に垂らされ、蛇のように蠢く帯によって暗示されているのである。本発表では月岡芳年の『新形三十六怪撰』「四ッ谷怪談」を中心とし、江戸時代の木版画における、変身する女の視覚的記号を紹介する。記号的に記された女人の内在する「鬼性」を絵解きすることで当時の女性観を窺うことができる。

戦中の資源不足と国内政策

Bradford Knappe (Harvard University)

他の列強と同様、戦前の日本はますます他国からの輸入資源に依存するようになった。緒戦での勝利によりアジアから資源を得やすくなったが、戦況が悪化すると、ほぼ得られなくなった。そのため日本の資源不足は深刻になった。そこで、日本は国内の資源や食糧などの需要を満たすため、1943年頃から新しい政策を実施し、様々な資源管理方法を考案した。それらのうちには、伝統的な取り組みもあれば斬新なアイディアもあった。結果として、環境に被害を与えたものもあれば、好結果をもたらしたものもあった。本発表では、戦時中の資源不足に対する日本の政策を通して、人間と環境の関係について考察する。

釣りによる日本の環境の変化

Andrew Kustodowicz (University of Kansas)

江戸時代には侍がニジマスを釣る光景はあり得なかった。なぜなら、江戸時代にニジマスやカワマスは日本の国内に存在しなかったからだ。しかしながら、1877年頃、日本の釣り人とイギリスの釣り協会の協力によって、マス系の卵が日本に運ばれ、日本のマス時代が始まった。その後、 日本は食物不足の状態になり、新たな食料として、日本の農水省はマスの養殖に興味を持ち始めた。そして、日本の国内に新しいマスの養殖場を建設し、マスは日本の生態系に大規模に導入された。この発表を通して、マス養殖の歴史を紹介しつつ、釣りと日本の近代化の関係を検討したいと思う。特に、釣りによって、日本の生態系が国際化されたことを明らかにしたいと思う。

日本の特別支援教育 ―課題と展望―

Naomi Lattanzi (Stanford University)

1878年に東京で初めての盲啞院が設立されて以来、日本の特別支援教育制度は長い歴史を経て現在の制度へと進化してきた。特に、戦後の教育法改正は障害児と健常児の分離教育を進めた。その後も、学生の個人的支援を盛り込んだ統合教育の推進により、2015年には日本の公立学校の約68%が特別支援学級を併設するに至った。本発表では、実際に学習障害を抱える人への聞き取りから得た体験を交えて、 日本の特別支援教育の現在の課題と将来の可能性について述べてみようと思う。

住まいの文化 ―日本のプレハブ住宅業界―

Jessica LeClair (University of California, Santa Barbara)

近年、日本のプレハブ住宅業界の高度化が海外から注目を集めている。日本のプレハブ住宅工場では、自動車組立ラインのように、工場組立ラインに沿って住宅のパーツ(例えば、壁のパネルや小部屋など)が製造できる。この発表では、プレハブ住宅に焦点をあてて、文化と住宅の複雑な関係に関して、考えてみたいと思う。それぞれの文化の違いから、家の設計やデザインなどが変わる。同時に、家の形態は文化の価値観を強化し、維持する。最近の日本の大手プレハブ住宅のメーカーのアメリカ市場への進出・拡大を通して、住宅設計に含まれている文化の価値観などを文化の輸出としてどのように実現できるのかを考える。

像内納入品としての印仏 ―仏教儀式の足跡と宗教の異文化交流―

Mary Lewine (University of California, Berkeley)

本発表では、像内納入品としての印仏という媒体が宗教的行為においても物質文化においても、重要な役割があるという点について考察する。平安時代以降、木彫像に内刳りをして空間を作る技法により、入仏開眼の際に結縁を結ぶことを目的に多種多様で貴重な物を像の中に納めることができた。注目したいのは、印仏という像内納入品である。興福寺、元興寺、称名寺に安置されている13世紀の仏像から発見された3つの像内納入品としての典型例の分析を通して、印仏が図像学研究、仏教物質文化研究にとって無視できない資料というだけでなく、聖なる経済や救済論的な信仰、そして結縁者の心願成就という祈りの痕跡を映し出していることにも言及する。

乾降年間の内務府の資本活動 ―天津市王族の隆盛と衰退―

Bryan Lynch (Yale University)

本発表では清朝初期の塩商人王一族の生涯を追いながら、内務府の資本活動について紹介する。内務府は主に皇帝の日用品の購買を担当していた部門であるが、台湾の国立故宮博物院所蔵の資料「奏折」によると、王一族は内務府の資本を借り受け、商売をしていたことがわかり、内務府には銀行としての一面もあったことがわかる。発表では、まず現代の銀行との類似点と相違点を指摘し、次に当時の経済状況や内務府と塩商人王一族との関係について論じる。更に内務府が面した問題及びその解決方法を説明し、内務府の経済的役割と運営方法の欠点について述べる。

パール判事の異議 ―東京裁判における反論―

Paolo Menuez (Portland State University)

本発表では、東京裁判で唯一有罪判決に反対したパール判事の反対意見について紹介する。この反対意見は1200頁にものぼるので、今回はそのあらゆる面には触れず、1945年に戦勝国によって新しく作られた侵略戦争を禁じた「平和に対する罪」と、「人道に対する罪」という法律に対する批判のみに注目する。すなわち、パールがこれらの法律をもって、30年代に中国で戦争をしかけた日本の指導者を裁くということは「法の不遡及」に当たる行為だと批判したことに集中する。基礎的な法律概念である「法の不遡及」について詳しく説明し、東京裁判の正当性に対するパールの疑念が、今でも国際法に存在している様々な曖昧点を浮き彫りにしていると指摘する。

GHQ占領下における日本の看護教育

Erin Newton (University of Chicago)

戦後GHQの下で、日本の看護教育制度は様々な変化があった。1946年から、看護教育審議会は看護学校を設立し、新しい教科書を出版し、看護教諭の再教育訓練プログラムを開始するなどした。このような改革は具体的にどのような意味があるだろうか。この発表では、第二次世界大戦中に書かれた教科書と、戦後GHQによって出版された教科書を比較し、分析することを通して、看護教育の思想を理解する一助としたい。

現代日本における外国人労働者

Jasmine Ortlieb (Pitzer College)

本発表は、日本における外国人労働者受け入れ制度を紹介し、とりわけ最も労働人口の多い3種の在留資格を持つグループの現状に注目する。近年報道されている労働法令違反や差別といった問題や、専門家が挙げる課題の検討を通し、外国人労働者の不安定な立場を浮き彫りにする。海外からの労働力に依存している日本は、外国人労働者の受け入れに関して今後ますます国際的な注目を集め、世界の大国の一つとしてふるまうことが期待されている。これを踏まえ、本発表ではより望ましい対応と施策の実践を提案する。

商業美術と実験映画の狭間 ―60年代の日本実験アニメーション―

Hsin-Yuan Peng (Yale University)

「アニメーション」という用語自体がまだ定着する前に、「アニメーション三人の会」という60年代に活躍したグループをはじめとして、 多彩な自主制作のアニメーション活動が盛んになってきた。こうした個人制作のアニメーションは商業主義を代表する大規模分業の制作体制と異なり、商業美術と密接に結びつき、多くのデザイナーがアニメーション業界に寄与することとなったのである。本発表は、こうした傾向に注目し、アニメーションにおけるグラフィックデザイナーの役割を検討する。デザイナーによって制作されたアニメーションの分析を通じ、「アニメーション」という言葉を再認識したい。

セヤー・コレクション「厨子」―明治期における収集の流行の分析―

Rachel Quist (University of Kansas)

1917年、アメリカ人収集家サリー・ケイシー・セヤーは、世界各国からの収集品をカンザス大学スペンサー美術館に寄贈した。その中の黒漆宮殿式の厨子が、2017年10月から2018年2月までセヤー夫人コレクション記念展覧会で展示された。本発表では、セヤー・コレクションの黒漆宮殿式の厨子を、明治期の輸出工芸品を背景とした収集の流行という文脈の中で考察する。そして、オリエンタリズムに裏付けられた欧米人による日本の工芸品収集の流行が、物質性や宗教性への強い憧れに基づいていたことを分析する。セヤー夫人の厨子の考察を通して、鎖国以降の日本と欧米の「モノ」を介した交流についても言及する。

沖縄詩人 山之口貘

Hilson Reidpath (University of Hawaii at Manoa)

今、沖縄は日本の一部というのは明白な事実であるが、かつてはそうではなかった。むろん、琉球王国は存在している間独立した国であった。その時、琉球は独自の政府や文化があったが、明治維新後、日本に併合され、その独立性はどうなったのだろうか。本発表は沖縄の文学を中心に、その文学の中で琉球の影響と近代社会の問題がどのように表れているかを考察する。特に、代表的な沖縄詩人山之口貘の作品を解析しながら、20世紀初頭の沖縄の背景、沖縄と日本本土の関係、また20世紀沖縄のアイデンティティについて論じたい。

「金毘羅」―神、小説、思想―

Alan Reiser (Indiana University)

本発表は、私の研究対象である作家笙野頼子の小説『金比羅』(2004年)を踏まえ、金比羅思想について紹介する。笙野頼子とその作品の基盤となる日本の習合神、「金比羅」の概要を提示してから、小説『金比羅』を概観し、主人公と考えられる笙野が自身を「金比羅」であると認識し、固定化された社会や伝統を更新する形で極私的な自己存在と生き方を組み立てる過程を追う。「金比羅」という存在は飽くまで自分自身で行動する自由を持つ個別的なアイデンティティーをもつ一方、深く社会や伝統に関わる「親」文化との接続を守り続ける。この生き方を「金比羅思想」と名付け、提示したい。

日本の「同盟切り離し」に対しての対応

Benjamin Rimland (University of Oxford)

最近数年間の東北アジアの勢力均衡は厳しくなってきた。朝鮮半島における突然の南北・米朝首脳会談

に、日本側の防衛外交政策の準備は乱された。特に、米国のトランプ政権の気まぐれな外交政

策のせいで、北朝鮮の核・ミサイル脅威に対しての共同政策の策定は困難になった。日本

側の視点から見ると、北朝鮮側の大陸間弾道ミサイルだけの廃止と在韓米軍の撤退を実現する

条約が締結されようものなら、日米連携が台無しになる懸念がある。この「同盟切り離し、すな

わちディカップリング」の恐れを避けるために、日本はトランプ政権に擦り寄ると共に

軍事的拡大を行おうとしている。この発表では、防衛省で行われたインタビューデータと他の研究資料を用いて、日本の

同盟切り離しに対しての戦略を調査する。

体操競技と東京2020年五輪のマーケティング戦略

Hayley Rothman (Vassar College)

現代においては、五輪を開催する経済的な障害が多く、国々が目指している経済的または社会的な効果を得るため、国際的、国内的な五輪マーケティング戦略は極めて重要な役割を果たす。この発表では、東京2020五輪の効果的なマーケティング手段として、器械体操を分析する。特にアメリカの女子体操と日本の男子体操の一流チームを事例として取り上げ、体操競技はどのように五輪マーケティングを支援するのかについて論じる。

日韓の歴史認識の乖離

Stephanie Sakuma (University of Tokyo)

世の中の人々が皆、同じ歴史を同じように捉えていたら、「歴史認識問題」が発生することはなかっただろう。「歴史認識問題」は、人々の「歴史認識」の不一致によって発生する問題である。歴史をめぐる論争は、考えの「すれ違い」から生じているのである。さらに比喩的な表現で例えると、私たちは歴史をめぐって論争する度に、「人間」が主人公である「過去」についての解釈に関して言い争っている。日韓間の歴史認識の乖離の溝はもともと深く、年月の経過とともにその乖離が広がってきていると専門家は捉える。この発表では、国家間の関係の在り方、およびその悪化を防ぐための両国内における啓蒙活動の重要性を述べる。

「クールジャパン」と「韓流」文化現象 ―日韓関係と相互認識―

Sabine Schulz (University of Chicago)

近年、「クール・ジャパン」と「韓流」という文化現象は、大衆文化を通して境界を超え、国力と国際的認識を拡大するものとなった。特に「韓流」を代表するアイドルは日本の大衆文化の一部として様々な面で注目を集めてきた。しかし、このように戦略的な文化輸出で国力と国際的認識を拡大することは、可能かどうか、どの程度日韓関係と相互認識に影響を与えるかはまだ明らかにされていない。この発表は「クール・ジャパン」と「韓流」現象を紹介し、関連するデータを通じて比較分析し、そのものの影響と効果を検討することを目的としている。

能楽への招待 ―フィールドワークからわかる伝統芸能の世界―

Jane Traynor (University of Alberta)

「伝統芸能の型はなぜそのように決められているのか」「師弟関係は芸能伝承にどのような影響を与えるのか」「男性中心の伝統芸能の世界では、女性の演者はいかなる経験をするのか」これらの問いに能楽の演者はたやすく答えを導き出せる。もちろん、文献資料は研究にとって重要な資源であるが、ある問いについては玄人に尋ねなければ、その答えは得にくくなる。本発表では、フィールドワークを通じて体験した強い印象を紹介しつつ、伝統芸能の世界へと誘いたい。

在日台湾人と無国籍問題

Catherine Tsai (Harvard University)

法務省によると、現在、在日台湾人は約5万4千人いる。いつから、なぜ、台湾人は日本に移動したのだろうか。そして、台湾は法令上の国ではないが、その人たちの国籍はどうなっているのか。在日台湾人の国籍問題を理解するため、植民地時代、戦後時代及び沖縄返還に注目する。この三つの国内及び国際的変化によって、在日台湾人の法的ステータスが決まってしまったからだ。この発表では、在日台湾人の国籍とアイデンティティの矛盾を明らかにする。

建部綾足と「折々草」

Catherine Turley (University of Colorado Boulder)

江戸時代の文人建部綾足(たけべあやたり:1719~1774)は、歴史、文学研究においてあまり研究されていない人物である。綾足は、一生のうちに武士、僧、俳人、絵師、小説家、国学者を経験した。この複雑な人生を反映するかのように多様なジャンルの作品に挑戦し、種類豊富なコーパスを生み出した。随筆『折々草』は、綾足の様々な経験と興味が混在して現れ、随筆であると同時に旅日記、詩集、怪談集、国学論の特徴を併せ持つ作品となっている。多面的で興味深い作品であるが、全体の現代語訳、英訳はいまだに存在していない。本発表では、綾足の人生と『折々草』の概要を紹介し、さらに、実際に翻訳した「三条」の特徴と翻訳手法について発表する。

「カラーラインの中のカラーライン」―W.E.B.デュボイスの視点から―

Alan Williams (University of Washington)

アフリカ系アメリカ人の歴史家でもあり社会運動家でもあるW.E.B.デュボイスは、1945年の日本帝国の降伏まで日本を頑固に支持した。植民地化される側より植民地化する側を支持したという彼の判断ミスは、人種に関する彼自身の思想によるものだと多くの学者は指摘している。しかし、1945年に日本帝国の対策に対しデュボイスは「日本の『優れた』人種の下でのアジアのカースト制度は、西洋の搾取の代わりとして受け入れられないものだった」と批判した。ではなぜ、デュボイスは日本帝国が暴力的だと分かっていても支持していたのであろうか。本発表では二つの要因とデュボイスの日本への疑念について述べる。

句題和歌における漢詩受容 ―慈円と定家―

Miaoling Xue (University of British Columbia)

句題和歌とは漢詩の一句ないしは複数句を題として詠まれた和歌のことである。様々な句題和歌の題には唐朝の詩人、白居易の漢詩が多く用いられている。『源氏物語』、漢文伝作品である『玉造小町子壮衰書』にも白詩、特に白居易の諷諭詩が織り込まれ、人の世の無常や貴族の奢侈が嘆かれていると言われている。本発表では、平安時代における白詩受容の文化的背景を踏まえて、慈円と定家がどのように白居易の諷諭詩である「凶宅詩」から着想を得、句題和歌を読んだかを分析し、源氏物語と漢文伝における諷諭詩受容との違いを検討する。とりわけ慈円と定家の句題和歌は諷諭詩の政教性の世界から離れ、独自の自然に対する個人的な感情を表す和歌世界を築いたと論じる。

山川菊栄 ―戦後の活動に焦点を当てて―

Jier Yang.J (Stanford University)

山川菊栄 (1890-1980) は日本の社会主義的フェミニストであるが、評論家、歴史家の顔も持つ。彼女は教育および職業における男女同権、男女および植民地人に共通の賃金、政府による母性保護などの権利を主張した。本発表は山川の戦後の活動を中心に、彼女の実践家としての貢献を論じる。まず山川の歴史家としての成功を紹介し、次に婦人少年局長時代の仕事と、自ら創設した雑誌『婦人のこえ』がもたらした影響を述べる。最後に、山川が発足させた日本婦人問題懇話会の功績を紹介する。

山姥の一生

(本人の希望により、このページへの発表内容の掲載は控えさせていただきます)

朝鮮における雑居の形成と日中関係(1876年-1895年)

Xiaoyi Ze (University of British Columbia)

1876年2月、江華島事件後の日朝修好条規は朝鮮にとって最初の不平等条約になった。これにより、日本は朝鮮に居留地を設けることになり、いわゆる「雑居問題」も発生してきた。日本国内の「内地雑居」が条約改正問題との関連で論じられるのに対して、海外における「外地雑居」は植民地化の文脈で論じられることが多い。しかしながら、実際には、朝鮮における雑居は清・朝鮮間の「朝清商民水陸貿易章程」(1882年)及びイギリス・朝鮮間の「朝英修好通商条約」(1883年)から始まったのであり、雑居問題は日本と清の朝鮮半島における勢力争いの結果だったと考える。

高等教育における中間層学習者のための教育実践

Yining Zhong (University of Colorado Boulder)

学生を評価する際に優等生や劣等生という言葉がよく聞かれる。教育研究においてもこの二つのグループが対象として取り上げられ、中間層が注目されることはあまりない。言い換えると、数において全体の多数を占めているにもかかわらず、その存在が無視されてきたとも言える。そこで、今回は日本、アメリカ、中国の高等教育機関における実践を紹介し、中間層の能力を促進することの重要性に関して発表する。

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アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター
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