Jordan Antonio (University of Hawaiʻi at Mānoa)
日本はキルギスに対して毎年数十億円の政府開発援助を行っている。文化交流も盛んであり日本に対するキルギスの好感度は高い。しかし、難民、移民、無国籍者に対する両国の対応は非常に異なる。1990年代、キルギスはソビエト連邦の解体により逃れてきた無国籍者全員に国籍を与えるという対応を取った。これは経済政策の一環でもあった。一方、日本では「出入国管理及び難民認定法改正案」が提出されるなど、難民への対応が厳しくなっている。日本は労働力不足であるが、なぜ難民受け入れに大変消極的なのか。本発表ではキルギスと日本の状況を説明し、難民政策が異なる理由について述べる。
Anna Araki (New York University)
近年、日本では離婚後の両親の間で、子どもの親権をめぐる争いが増加している。これらの争いの多くは、日本が採用している単独親権制度によって生じる問題だと見なされている。そのため、日本は諸外国で採用されている共同親権を導入するべきだと考える人は少なくない。しかし、共同親権を導入する際に注意すべき点の一つは、元配偶者からのドメスティック・バイオレンス(以下「DV」)被害から逃れた親が危険に晒される可能性があることである。日本では、DV被害者を保護するために「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下「DV防止法」)が施行されているが、これは十分な対策であるとは言い難い。そこで本発表では、共同親権導入に先立って、DV被害者を保護する制度整備を行うべきだと主張し、DV防止法における問題点をいくつか検討する。
Isabel Bush (The College of William & Mary)
「妖怪」という民俗学的な想像上の生き物は、多くの昔話で人間に関わり、わんぱくで超自然的な怪物だと考えられている。新型コロナウィルスが広く日本の社会に影響を与えた2020年早春のパンデミック下で、新しい妖怪が再発見された。このアマビエ、アマビコ、ヨゲンノトリといった妖怪は、インターネット上のミーム再生成、あるいは画像尊崇により人気が高まった。この妖怪の遍在化は、ユーザーが作り出したコンテンツを支えるSNSやウェブサイト等のオンライン空間上で進行していき、国や地方自治体の公衆衛生に関するキャンペーンや宗教的・世俗的商品市場で統合される以前において、日本社会の中で「ウイルス的名声」を獲得することとなったのである。
Sasha Chanko (Stanford University)
本発表では日本における宗教と世俗化の関係を取り上げる。現在日本の寺院は減少傾向が続いており、その理由として世俗化が指摘されている。しかし、世俗化を理由とする見方に反対する意見や、そもそも世俗化は日本に見られないとする意見も少なくない。「世俗化」というのは西欧の啓蒙思想やプロテスタントを論じる際の枠組みであり、現代日本のコンテクストで使用する場合には、その意味や定義を考え直す必要がある。本発表では「世俗化」を定義し、それを基に日本の仏教と「世俗化」がどのような関係にあるかについて述べる。
Yeonjun Cho (University of Virginia)
1960年代から1980年代まで、日本政府と北朝鮮政府の協力のもと、在日コリアンを北朝鮮に送還する「帰還事業」が行われた。当時、労働力が大量に必要だった北朝鮮は、自国を「地上の楽園」と形容して帰還事業を強力に推進した。一方、日本は、在日コリアンを経済的に保護する責任から逃れるため全面的に協力した。しかし、在日コリアンたちが自分の人生を描いた映画や回顧録によると、当時の北朝鮮の姿は「地上の楽園」とはかけはなれていたようだ。本発表は、当時の北朝鮮における在日コリアンの生活の実態を、メディアを通じて多様な観点から描き出そうとするものである。
Hamish Clark (University of Melbourne)
戦後まもない1946年に発行され、1953年まで中学校および高等学校で使用された文部省著作教科書『民主主義』は、実際のところ日米合作の特異な社会科教科書であった。『民主主義』は従来、日本の研究者や占領軍関係者たちから民主的な理想を熱く語ったと極めて高く評価されてきた。しかしながら、今日の視点で読むと多分に政治的偏向が認められる。本発表では『民主主義』から戦争責任と占領政府に関する言説を抽出し、その問題点を論じる。
Michael Clogston (University of California, Davis)
『(週刊)少年ジャンプ』は小中学生を読者層とした漫画雑誌で、1968年に創刊された。2020年の発行部数は約600万部である。21世紀に入ると、『少年ジャンプ』は日本だけではなく、世界中で読者をひきつけるようになった。スポーツ、青春、アクションなど様々なジャンルの作品があるが、どの主人公も世界中の読者を魅了してやまない。なぜ『少年ジャンプ』作品の主人公はこんなにも魅力的なのだろうか。本発表では「ハイキュー!!」、「青のフラッグ」、「呪術廻戦」という3つの漫画を取り上げ、それぞれの漫画の設定、主人公の性格や成長などに焦点を当てて分析し、主人公の魅力を明らかにした上で、『少年ジャンプ』作品の典型を示す。
Quilleran Cronwall (Yamanashi Gakuin University)
ライフスタイル・マーケティングとは、同じような人生観や価値観を持つ人をグループ化し、そのグループが受け入れやすい商品やサービスを提供するマーケティング手法である。これまでの研究では価値観に焦点が当たることが多く、消費者がどのような自己イメージを持って商品を購入しているのかについては触れられていない。そこで本発表では、まず、60年代にアメリカにおいてホンダがスーパー・カブを販売する際に用いた「ナイセスト・ピープル・キャンペーン」に触れ、購入者がどのようなアイデンティティ意識を具現化しようとしたのかについて説明する。次に、このキャンペーンがその後のホンダにどのように影響を与えたのかを述べる。最後に、ホンダはオートバイに乗る人々のイメージをバイク修理ができる男性、いわゆる「ヤンキー」から中流階級の男女に広げ、それによって幅広い層に支持される輸送機器メーカーとなったことを説明する。
Siming Deng (University of Chicago)
徳川家康の五街道整備事業により全国の街道沿いに多くの宿場町が作られ、地域間で物資を輸送する「人馬継立」という形式が確立し、幕府の政令の円滑な伝達を可能にした。この事業は、徳川政権の安定化に重要な役割を果たすと同時に、地方大名の参勤交代を支える基盤として、地域経済の発展に大きい影響を与えたと考えられる。本発表ではG.W.スキナー (1964) の中国農村地域における市場町によって構成された集落間を結ぶ経済圏発展についての理論を応用し、江戸時代の宿場町を結んでいた地域経済の関係を探究する。
Yueran Ding (Hamilton College)
「声優とはアニメやゲームのキャラクターに声を当てる仕事である」という定義は、あまりにも狭いかもしれない。実際のところ、声優の仕事は実に多岐にわたっている。本人の顔を出さない「裏」の仕事もあれば、顔を出す「表」の仕事もある。声の技術だけでなく、タレント性も求められている今日において、声優は声優ならではの方法で、面白いコンテンツをファンに提供している。では、声優は果たしてどのようにその独特なエンターテイメント性を構築してきたのだろうか。俳優、歌手、アイドル、お笑い芸人とはどのように異なるのだろうか。本発表は、声優の様々な場における活躍を取り上げ、そのエンターテイメント性の構築過程を明らかにする。
Joseph Druckman (Carleton College)
2011年の福島原発事故以来、日本政府は社会の脱炭素化およびエネルギー自給率の向上という目標の達成に向け、再生可能エネルギーの導入に弾みをつけようとしてきた。ただ、その導入は費用や技術の問題により伸び悩んでいたため、さらなる発展を促進するための新しい対策を講じる必要性が明らかになってきた。そこで、政府は再生可能エネルギーの発展を妨げていた従来の問題を解決するための新たな法律をいくつか制定した。今回の発表は、固定価格買取制度についての法律および洋上風力発電事業に関する海域の利用についての法律を分析する。それを通して、日本政府が再生可能エネルギーを促進するためにどのように法律を活用しているかという問題を論じる。
(発表者の希望により、このページへの詳細の掲載は控えさせていただきます)
Robert Earle (University of Wisconsin-Milwaukee)
音楽には、社会的な役割がいくつかある。本発表では、日本の政治への抗議運動で使われた音楽を紹介し、二つの有名な例を検討する。1960年代のベトナム戦争反対運動と2010年代の反原発運動では、いわゆる「プロテストソング」が重要な役割を果たした。背景、音楽の種類、運動の結果はそれぞれ異なるが、共通点もある。この二例の相違点に目を向け、比較することで、日本の政治的環境を深く理解することができる。現在の日本の政治的環境について考慮しつつ、プロテストソングの未来を考えてみたい。
José Manuel Escalona Echániz (University of British Columbia)
『亜墨新話』は天保14年(1844年)、前川秋香によって書かれた漂流記で、阿波出身の船員、初太郎の海外経験を語るものである。初太郎は太平洋で4ヵ月余り漂流した後、スペインの船に救助され、およそ2年間メキシコに滞在し、帰国の途に就いた。本発表は『亜墨新話』の付録である「亜墨竹枝」に注目し、そこに登場するメキシコの風俗に関わる建築、慣習、服装などの描写を検討しながら、新しい世界観を説くため用いられた漢籍由来の比喩・対比を紹介する。
Noah Francois (Colgate University)
2004年、Facebookの登場は世界にある種の技術的な革命をもたらしたといってもよい。また、スマートフォンの技術が進むにつれてLINEやFacebookなどのSNSの使用も増加してきた。ソーシャルメディアの便利な点は数え切れない。簡単なアプリを通じて様々な考え方、文化、ニュースなどにアクセスすることができる。その結果、人間同士のコミュニケーションの方法も変わった。現在はLINEとFacebookは完全に社会に統合されている。本発表ではSNSアプリと大衆文化の関係、社会への影響について検討する。
Benjamin Freedman (Middlebury College)
近年、訪日外国人の数が激増しており、ベジタリアンをはじめ、ビーガン、更には宗教上の理由による食事制限など、多様性への対応が一層求められるようになった。そこで、本研究では、日本の精進料理に着目し、ベジタリアン、ビーガン、そしてハラールというイスラム教の食事制限を比較研究する。その上で、それらの共通点を指摘し、閉鎖的と考えられがちな食事制限に新たな文化交流の可能性を見出したい。
Eric Funabashi (University of Kansas)
明治時代 (1868–1912) の女子教育は、料理や裁縫などの家事を中心に行われていた。しかながら女子教育は全ての社会階級の女性が受けられるものではなかった。社会階級が低い女性に教育の機会を与えるため、教育者や料理人は料理本を出版した。料理本の著者の背景や個人的な経験は、料理本の内容に大きな影響を与えた。例えば画像や分量などの基本的な情報を初めて入れるなど、わかりやすくするための工夫もその一つである。本発表では著者を三種類に分類し、その影響について説明する。
Thomas Gerz (Temple University)
本研究ではヴァーチャル言語景観における沖縄に関するディスクールを取り上げた。YouTubeで公開されたBEGINという沖縄県出身のバンドの二つの動画のコメント欄を対象にして、ヴァーチャルな空間の特徴と視聴者が示した「沖縄性」に関するイデオロギーを分析した。YouTubeのコメント欄の特徴である「評価順」という自動整理機能を使用したところ、先行研究で強調されたヴァーチャル言語景観の「一時性」と「仲介性」という特徴が見られた。また、コメント欄でしばしば観察された、沖縄への「連帯感」、そしてその「連帯感」への「抵抗感」も特徴の一つとして挙げたい。
Mackenzie Gill (University of Iowa)
翻訳者は作家自身の声やスタイルを忠実に再現しなければならないという考え方がある。しかし、翻訳の際に、意図せず翻訳者の声も入ってしまうかもしれない。私はそれは悪いことではないと考える。人は誰でも大人になるまでに様々なことを経験し、その経験から自分の視点や意見、性格が形作られている。その経験は毎日の生活、ひいては翻訳という行為にも影響を与えているのではないだろうか。この発表では滝口悠生が書いた『ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス』という本を翻訳する過程を通して、自分の経験や思い出が作家が書いたものに重なり、どのように翻訳に影響を与えたかについて述べる。
Rosalie Gunawan (University of British Columbia)
雛祭りは日本文化の象徴の一つである。雛人形は平安時代の公家の装束をまとっているので、雛祭りも平安期からの行事だと思われがちだが、実は江戸時代以降のものである。本発表では雛祭りの歴史的研究を通して、雛祭りの庶民への普及と近代天皇制の浸透を論じる。雛人形の形式は立雛、享保雛、古今雛など複数認められるが、中でも天皇・皇后を表す内裏雛の装束に注目して江戸時代における庶民への普及を検討し、さらに、戦後、天皇制が雛祭りの地方への広がりを促進したことを指摘する。
Stephen Hale (Middle Tennessee State University)
誰でも一生に一度は多少なりとも就職活動が必要となる時があろう。新卒はもちろん、転職を希望して中途採用に応募する人も少なくないだろう。本発表では、主にアメリカと比較しながら、日本の就職活動文化をはじめ、履歴書の書き方、ブラック企業の見分け方などの情報を提供する。様々なところから情報収集して作成した日本における就活マニュアルを読んでもらえれば、日本で就職活動する際の基本が理解できる。就活中の方はもちろん、そうでもない方にとっても日本の一面を知る機会になれば幸いである。
Jenna Qi Han (University of Southern California)
2015年、児童ポルノの所持または保管が違法化された。それは法律上の大改正だと言われているが、依然として問題は残っている。最も注目すべき点は、アニメ・漫画などのいわゆる二次元作品については対象外としたことである。二次元作品の世界にはロリコン文化という現象があり、ロリコン文化が普及すればするほど小児性愛を容認する傾向も強まっていくと考えられている。特に、アイドルグループ、セックスドール、専門誌にみられるロリコン文化の影響を考察すると、これは児童の性的搾取であるということが分かる。さらに、1988年に起きた東京及び埼玉における連続幼女誘拐殺人事件以降、ロリコン文化が児童に対する犯罪に影響を及ぼすかどうかについて議論が続いている。
Remi Hazell (Concordia University)
本発表では、児童福祉、特に保護者がいない、あるいは虐待を受けている等、保護が必要な児童の福祉を中心に検討する。日本においては、児童相談所と児童養護施設という二つの福祉機関がこのような事案を対象とし、児童を保護・収容する権利を持っている。この二つの機関の保護のプロセス、入所する児童の家庭事情やその背景となる日本の社会状況、児童相談所における問題点、働く人や入所児童にとっての問題点、さらに現在進行中の改善の試みを説明する。また、里親制度にも触れる。
Aaron Hopes (Stanford University)
沖縄本島北部の亜熱帯雨林地帯「やんばる」には、自然のままの原生林は存在しない。1872年の琉球処分から、戦後の琉球列島米国民政府による統治を経て、1972年に日本に返還されるまで、長期にわたって乱伐が繰り返されたからである。現在の「やんばる」は、環境保護活動の舞台、米軍基地・軍事訓練場など、政治的、生態的に様々な側面をもつ。本発表では、米国民政府の公文書および発表者の参与観察によるデータから、過去の歴史とのつながりが新たな「政治的公共圏」を産み出していることを論じる。
Jue Hou (University of Chicago)
本発表は日本のプロレタリア文学、特に昭和初期に権力の弾圧により左翼思想を放棄した作家によって書かれた「転向文学」と、私小説との接点について考察する。中野重治の小説『村の家』に着目し、日々の暮らしを営む主体である「生活者」としての主人公の自覚を中心に分析する。そして、従来は「非政治的」もしくは「前政治的」と捉えられてきた日常生活への注目が日本における左翼思想に与えた新たな可能性を検討する。
Reed Hulburt (International Christian University)
日本では、少子化問題が深刻化している。少子化に関する議論や政策において女性に責任があるとされることが多い。しかし、日本の労働文化や家父長制に注目する必要がある。若者は一般的に結婚や子供を望んでいるが、様々な理由で実現できないでいる。この発表では、両面価値的性差別理論を用いて少子化の理由を検討する。
Alex Hutchins (Cornell University)
2018年5月に制定された森林経営管理法によって、民間企業が国有林野資源を利用できるようになり、大規模で利益志向の森林利用が可能となった。これに対して、長期的な森林保護につながらないという批判がある。本発表では、森林の持続可能性と地域経済を優先するアプローチを提案する。地方の独立請負業者または管理協同組合が、自治体や森林所有者と協力して、私有林と国有林の両方を統合的に維持できるようにする。また、製材所施設を統合し、バイオマス施設を通じて再生可能エネルギーを生成できるようにする。こうした取り組みによって、木材価格の長期的な上昇、環境技術の進歩、地域経済の発展などの利益も得られるのである。
Kanako Ichikawa (University of Massachusetts Amherst)
デジタル化が進んでいる現代社会では、技術の発展に対する柔軟な適応力が求められている。そのため、児童生徒に対するデジタル教育は必須となっている。また、デジタル教育は社会におけるデジタル化の現状を表し、各国の特徴さえも浮き彫りにさせることがある。本発表ではデジタル教育をアメリカで受けた50名と同教育を日本で受けた50名を対象に実施したアンケート調査を基に、アメリカと日本の教育機関における情報教育を比較、分析する。また、調査結果を踏まえて、なぜ日本社会のデジタル化はアメリカ社会ほど進んでいないのかについて考察する。
James Kotey (University of Pittsburgh)
沖縄の歴史は支配された歴史である。かつては王国であったにもかかわらず、沖縄は他の勢力の支配下に置かれるという状況に晒されてきた。第二次世界大戦下では沖縄は戦場となり、日本の敗戦により広大な土地が米軍基地となった。現在においてもなお、戦闘機などの騒音や問題を起こす米国軍人への我慢を強いられるなど、沖縄の苦悩は絶えない。しかしながら米軍との共生には不利益ばかりでなく、利益もある。沖縄の米軍基地問題の真の解決には沖縄の声を聴くことが重要である。本発表では日本政府、米軍、そして沖縄の三者の関係を密にすることにより、沖縄の人々にとって適切で実現可能な道が開けると述べる。
Zhizhi Li (The University of North Carolina at Chapel Hill)
日本のラジオ体操は、過去百年の間に日本人の生活に定着し、時代の流れに沿って多様な社会的役割を果たしてきた。この発表では、ラジオ体操の初放送と昭和天皇の即位礼がともに行われた1928年(昭和3年)に焦点を当て、日本におけるラジオ体操の歴史的な役割を指摘する。特に、昭和初期に公的機関から出版された史料を参照しながら、その当時ラジオ体操がどのような社会的意味と期待を与えられたかについて分析し、ラジオ体操の儀式性、政治性、及び象徴性という3つの性質を主張する。
(発表者の希望により、このページへの詳細の掲載は控えさせていただきます)
Tyler Logan (University of Chicago)
ファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」の創業者である日本のデザイナーの川久保玲は、ファッション史上最も抽象的な服を生み出してきた。しかし常に新しい服を作るという目的を持つ川久保は「独創的」という壁にぶつかる。2013年、川久保は既存の「服」の概念から脱却して服を作るという新たな目的のために「服ではない服」を作り始めた。2013年から2018年の間、川久保は最も芸術的で情動的な作品を作り続けた。この時代のショーや服は「ものづくりのパワー」の代表であるだけでなく、女性アーティストの表現の自由を宣言するものでもある。本発表では、川久保玲の「服ではない服」の時代をまとめ、作品を分析する。
Hana Lord (Yenching Academy, Peking University)
現行戸籍法の基礎となった明治時代の戸籍法は1871年に制定された。度重なる改変を経たものの、今日でも住民登録制度として使われている。戦前の戸籍は、「家制度」が長男に戸主権を与え「家」を基本単位としていたのに対し、戦後は「家制度」が廃止され、「夫婦」を基本単位とする戸籍に変更された。戸籍謄本は、遺産相続等の実用面で重要な書類であるのみならず、研究資料としても非常に有用である。本発表では、現行戸籍の要素と研究資料としての弱点を指摘しつつ、昭和初期に戸籍謄本を調査することにより明らかになったある人物の移動を分析する。とりわけ、明治法制下で戸主であった発表者の大叔父の、長崎県から満州国ハルピンまでの移動を伴う数奇な人生について、遭遇した女性に触れつつ発表する。
Caitlin Maroney (University of Massachusetts Amherst)
本発表では、日本のゲームを他言語に翻訳する過程、いわゆるローカライゼーションについて論じる。特に、ファンがソーシャルメディアを通してローカライゼーションに影響を与える例を中心に検討する。ローカライゼーションによって元のゲームの内容や表現が正しく伝わらなくなってしまったと考えるファンは、ソーシャルメディアで暴力的な批判に訴えることがある。ソーシャルメディアにおけるファンの会話がローカライゼーションにどのように影響するかを分析するため、『ファイアーエムブレムif』、『イースⅧ—ラクリモサ・オブ・ダーナ—』、『龍が如く』シリーズを中心に取り上げ、分析する。また、ゲーム会社がファンの批判に適切に対応することの重要性と、ファンのイメージに基づいた翻訳の「正しさ」が原作と乖離していく危険性を論じる。
Anna McClain-Sims (Yale University)
いわゆる「ジェンダーレス・モデル」と呼ばれる人々は2012年から日本で徐々に人気が出てきて、一般の人にもより可視化されるようになった。この呼称には「ジェンダー」という言葉が入っているが、性自認にこだわっているわけではない。むしろ、多くの「ジェンダーレス・モデル」によると、「ジェンダーレス・ファッション」は「男性用」・「女性用」にこだわらないファッションで、自分らしさを自由に表現する方法だという。しかし、いわゆる「ジェンダーレス男子」と「ジェンダーレス女子」の洋服、考え方、およびファンを詳細に検討すると、意外な傾向が浮かぶ。それは、「ジェンダーレス・モデル」が多くの女性に好まれそうな「代替男性性」を表していることである。本発表では、この「代替男性性」が多くの女性の経験と気持ちを肯定するものであることを述べる。
Nicole Moylett (University of Delaware)
本発表では、アニメーターが置かれている過酷な労働環境を取り上げる。特に、日本のアニメ業界のアニメーターやアーティストへの不当な待遇に焦点を当てる。世界中で様々なアニメが放映され人気が出るにつれ、アニメ業界はかつてないほど多くの収益を上げている。それにもかかわらず、アニメーターやアーティストは低賃金かつ長時間労働という環境で働き続けている。この発表では、まずアニメーターが甘受している過酷な労働条件、次にそのような条件が続いている理由、最後にこうした現状を改善するための可能な対策を紹介し、検討する。
Sara Muñoz Guichon (University of La Laguna)
新型コロナウィルスが世界中に広がり、我々の従来の生活様式を大きく変えた。目に見えない脅威が経済活動にも打撃を与え、多くの業界が影響を受けている。通訳業界も同様である。人が集まるイベントや会議が中止され、会議通訳者のニーズが激減した。このような逆境の中、あらゆる領域でソーシャルディスタンスを保つ工夫や変化がみられる。通訳では遠隔通訳が普及しつつあり、通訳者組合は遠隔通訳の行動指針をまとめた。この発表では、通訳者の仕事、チームでの働き方、コロナ禍のニューノーマルについて説明する。
Michelle Ng (University of California, Berkeley)
リスクマネジメントは企業の価値を高めるために不可欠なものである。現代のビジネス社会は様々な要素が複雑に関係し日々変化しており、偶発的事故や人為的ミスに起因するリスクが企業に損害を与える可能性が高まっている。また、デジタル化が進み多くの企業でITが活用されており、予測できない新たなITリスクに晒されている。リスクによる損失を回避したり低減したりするためにはリスクを管理する必要があり、それと同時にリスクに対する迅速な対応が求められる。本発表では、日本での成功事例の1つとして日本マクドナルドのケースを紹介し、リスクマネジメントの概要や手法について述べる。
(発表者の希望により、このページへの詳細の掲載は控えさせていただきます)
(発表者の希望により、このページへの詳細の掲載は控えさせていただきます)
Spencer Rauner (The George Washington University)
最近、アメリカでは連邦政府の司法制度の改革についての議論が拡大している。それを踏まえて、本発表では裁判官の選び方に焦点を当てながら、日本とアメリカの司法制度について検討したい。特にそれぞれの制度が、どういった価値を強調するのか、またその是非はどうかという疑問について考察する。いずれの制度にも長所があり、「公平性」と「正当性」を保つためには、この二つの制度の組み合わせにより裁判所の独立と国民との繋がりのバランスを図るのが重要である。
Brian Rogers (Princeton University)
大正時代、電車通勤者は増えていき、ラッシュアワーの混雑が現在同様、日常風景となった。電車の運行の妨げや他の乗客の迷惑にならないように、その頃から乗客は自らの行動を抑制しはじめたと指摘する歴史家もいる。しかしながら、戦前国鉄に勤務していた栗島秀雄によるエッセイ、『ラッシュアワー展望』(1930年)から、乗客の行動は現在と異なり、いわゆる乗車マナーが定着していなかったことが分かる。東京駅の駅長であった栗島は、乗客を「公徳心」が希薄であると評価していた。本発表では、『ラッシュアワー展望』にある乗客の行動を描いたエピソードを中心にお話しする。栗島の観察を通じて、乗車マナーが定着していく過程を垣間見ることができるであろう。
Marc Schleif (Bentley University)
現在の日本は他の先進国と比較すると、個人投資の普及という点において随分遅れを取っている。さらに、個人の資産における投資率が低く、現金貯蓄率が高い。歴史上、日本ではなぜ資産運用は身近なものではなかったのか、という根本的な原因を探り、今後どのように日本社会に投資文化を根付かせたら良いかを前向きに検討してみたい。実際、この数年間で日本において投資の民主化が進んだ。フィンテックを活用した新サービスの導入、投資教育を無料で受けることができるクラスやオンラインコミュニティの形成、そして最近起きた人々の好奇心を刺激するようなある出来事を通じて、個人投資に興味を持つ人々が急速に増加している。このような現状を踏まえ、個人資産を築くために、個人投資家の観点から投資の民主化の様々な利益について論じる。
Christopher Taylor (Johns Hopkins University)
1928年に大礼記念京都博覧会で展示された《學天則》は一般的に東洋史上初のロボットだと説明される。ただ、《學天則》の作者である西村真琴自身は學天則に対して「ロボット」という言葉の使用を避けた。なぜだろうか。《學天則》を見てみると、映画や小説に登場するロボットと異なり、人間に代わる機械的な労働者のようにも、あるいは人類の破滅をもたらしそうな人工知能のようにも見えない。むしろ、複雑な動きと微妙な表情が自由自在で人間らしい表現をする人造人間であった。《學天則》は「科学と芸術の交流」によって生まれたのである。本発表では《學天則》の名前、意匠、動作などの意義を説明しながら、《學天則》を介して伝えられた、西村の哲学と世界観を解説する。
Joel Thielen (University of California, Berkeley)
1950年、京都にある鹿苑寺舎利殿(金閣)は、住職の弟子により放火され、焼失した。その後、55年に再建されたことはよく知られているが、約30年後、86〜87年に行われた昭和大修復はあまり注目されていない。本発表では、修理にとって重要な材料である漆の調達に焦点をあてて、この昭和大修復を考察する。修理担当者は、金閣を足利義満(1358〜1408)が建立した当時の黄金色に戻すために、金箔の厚さを55年再建時の5倍にすることを決定した。そして、厚い金箔を貼るために、岩手県浄法寺町で生産された漆の使用が必要だと判断した。輝く金箔の裏にある漆を前面に出して見せることで、見落とされてきた地域生産と現代日本の文化遺産保存活動との繋がりを示す。
Lane Walker (University of Chicago)
本発表では、19世紀後半の日本のコレラ感染症の影響を、東京に焦点をあてて検討する。明治時代の史料とGISソフトウェアを使い、東京の地理的感染状況を明らかにすることにより、住民にどのような影響を与え、どのような対策が取られたのかが理解できる。発表は、まず日本でのコレラの流行の歴史を説明し、次に地理的、環境的要素を踏まえて、感染症対策がどのようなものであったかをお話しする。そして、感染症とそれへの対策が日本全体に社会的、経済的、政治的影響を及ぼしたことを述べる。最後に、効果的な治療法がない中で、政策と国民の行動によってある程度蔓延を制御できたという結論を示す。
Chen Wang (University of British Columbia)
現代中国漫画の歴史は戦争と深く関連している。1931年の満州事変から、中国の漫画は日本の侵略を告発しながら内政の腐敗も風刺していた。政府の厳しい審査に対抗して、漫画家たちは出版社を作り、多様な漫画雑誌を拠点として闘争し続けた。教育がまだ普及していない戦争時代において、漫画は読みやすく低コストで、大衆の人気を博していった。戦争とともに成長した中国漫画は視覚的メディアで反抗精神を国民に伝え、窮地に追い込まれた時にも最終的な勝利を信じ、抗戦活動を行うよう鼓舞し続けた。本発表は戦時中の中国の漫画家の活動と彼らの作品に注目して、抗戦漫画の視覚的なイデオロギー的要素を分析し、戦争反対が抗戦漫画の焦点であることを示す。
Lillian Wies (University of Maryland, College Park)
本発表では、20世紀初期の日本の性差別に抵抗した梶原緋佐子(1896–1988)という女性画家の戦略について検討する。当時女性の社会的役割は拡大しつつあったが、「良妻賢母」というイデオロギーによって女性は家庭内での役割を過剰に期待されていた。女性画家たちはその流れに反する存在であり、マスコミから厳しい非難を浴びせられた。また、創作活動にも様々な差別や制約があった。最も注目すべき例は、女性が美人画という日本画のテーマを選ばせられたことである。大正時代の美人画に焦点を当て、緋佐子が性差別的な社会構造に独自の画風で抵抗し、自分が描いた女性とともに自分自身をもその絵の中に表したと論じる。
Mason Williams (University of St. Thomas)
情報伝達を目的とする一般的な文書を作成することと比較したら、創作というのはまるで違う方法で作られている。特に文章を展開させるのが難しい。4学期のプロジェクトワークとして、私は自身が創造したアニメの物語をもとに、21ページ、約12,000字のアニメの脚本を日本語で執筆し検討した。この活動により、人物の言葉使いや描写の構成などがわかるようになった。本発表では、なぜ脚本という形式を選択したのか、一体どのように創作を進めたかを述べた上で、これから日本語で創作をしてみたいと考えている人に向けての提言をしたい。
(発表者の希望により、このページへの詳細の掲載は控えさせていただきます)
Isabella Yang (Yale University)
現代社会では、欧米をはじめとする先進国が発展途上国の文化要素を自分の国で使うのは一種の植民地主義の現れではないか、という議論がしばしば行われている。特に、芸術分野ではそのような論争が多くある。現代の問題を理解するため、本発表は歴史上の同様のエピソードとして、十九世紀末にアメリカで流行していた「ジャポニズム」という風潮を取り上げ、「クモ」のモチーフを用いた銀器を例として「文化引用」あるいは「文化盗用」の観点から分析し、植民地主義による芸術の脱文脈化を指摘する。
Jiayin Yuan (University of Michigan)
平将門は、平安時代、天皇に対して武力をもって反旗を翻し、みずから「新皇」と名乗った関東武士である。939年に挙兵ののち敗死したが、最初は単なる逆賊とみなされた。しかし次第に、常人を超えるヒーローと捉えられたり、怨霊として恐れられたり、産土神として祀られたり、そのイメージは多種多様に広がった。そして、明治以降、怨霊としてのイメージが定着するに至った。これほどイメージの変遷が激しい人物は類例を見ないのではないだろうか。本発表は、将門のイメージの変遷史を通して、怨霊としての将門が産み出された経緯と時代背景を検証する。
Xun Zheng (Columbia University)
本発表は、初期テレビジョンの言説史という視座から、1950年代終盤および60年代初頭に発表された、南博の「受け手」をめぐる研究と梅棹忠夫の情報産業に関する論考について考察する。テレビ放送の成長期に展開された南と梅棹のテレビ論に対する検討を通し、「受け手」と「情報」という、コミュニケーション研究上すでに一般化している概念の起源を追究することを試みる。そしてその起源において行われたテレビの身体性をめぐる考察や時間に関する思索をたどることにより、「受け手」と「情報」の潜在的意義を見出したい。
Jiaqian Zhu (University of California, Berkeley)
本発表では、大正時代 (1912–1926) の作家堀辰雄 (1904–1926) の人生や創作姿勢を検討しつつ、彼の小説である『美しい村』と『菜穂子』、そして『風立ちぬ』を紹介する。まず、堀辰雄と立原道造 (1914–1939) を中心とした、軽井沢における四季派詩人達の交流を説明する。次に堀のエッセイ『文學的散歩 プルウストの小説構成』(1932) に基づき、堀が目指した小説の構成法である「ピラミッド式」と「薔薇窓式」そして「ワグネル式」を分析する。このいわば「詩的な散歩」のスタイルによって、堀は詩的に気持ちを表すだけでなく美術や建築そして音楽などの表現もエッセーに豊かに取り入れ、自分のスタイルを構成する。そして、堀の「散歩」という概念とドイツの「哲学の道」を重ねて考えると、堀が作品中で「哲学者の道」を抽象化し、自身の存在を思索し、人生と時空の意味を求めていたことが分かる。
Holden Zimmerman (Yale University)
本発表では、20世紀前半の国際的な人道主義と外交の関係というテーマを紹介する。特に、その時期の赤十字運動と諸国の外交の目標との相互関係に焦点を当て、そこには「防御のための人道主義」とでも呼ぶべき概念が見られることを指摘する。まず、19世紀後半と20世紀前半の国際法と当時の欧州とスイスの状況を簡単に説明し、それから、第一次世界大戦頃のスイス政府と国際赤十字社の貢献を事例として検討する。スイスは領事館の斡旋によって外交を行うことができ、捕虜収容所の代わりに人道的な解決策も生み出すことが可能となった。このことはこの時期の人道主義と外交の間に十分に研究されていない歴史的つながりがあることを明らかにしていると考える。