2005-2006年度 卒業発表会内容紹介

「身体を洗ってもアカが出なかった」赤軍と人間性の政治

Matthew Black(Columbia University)

現在のテロ組織や工作員に対する恐怖感について、70年代の赤軍武装行為と粛清、またその受けいれ方と足跡は私たちに何を語るのか。田原総一郎は浅間山荘事件に関して、永田洋子が指揮した13人の「総括」を宗教的な殺害として解釈し、「赤軍=我が内なるアルカイダ」という主張をしている。一方、赤軍のマルクス主義系の批判者は党派主義と第三世界主義の終焉として重信房子、永田洋子を戦略的に批判する。しかし前者が主張する「野蛮な行為は人間の本来を描く」観点は文脈と歴史性が足りない上に、後者の形式主義は暴力の概念的な複雑さを低く評価しているので両者とも充分とは言えない。赤軍員の特異な言葉遣いと「肉体性」を通して、現在の「プロ市民」に対する嫌悪感と繰り返された反共産主義を再考する。

西田哲学における倫理学

Tyler Brown (University of Chicago)

これまで西田哲学は、特にファシストとして批判されてきた。なぜならば西田幾太郎は『日本文化の問題』という著書で、天皇の存在について「無の場所である」などの発言をしたからである。しかしながらそれは適切な評価なのであろうか。これを再検討するために、彼の著書『善の研究』における倫理学をまず説明し、次に彼が説いたこの「善」という概念や集団や個の関係性について、ファシストの思想という視座から評価してみたい。

アメリカの占領に対する日本国民の態度

Delyana Burdjeva-Glover (Ohio State University)

1945年8月14日にポツダム宣言を受諾した日本は、同年9月にアメリカを中心とする連合軍の占領下に入った。それからおよそ6年間、日本の最高統治権限はGHQとその総司令官マッカーサー元帥に与えられる。占領下の日本とGHQの政策は歴史学者により複雑な評価を受けているが、占領政策の展開過程が主に二つの時期に分かれていることは広く指摘されている。1947年にいわゆる「逆コース」が始まるまでの時期は戦後改革が実施された時期と見なされているが、それは日本国民にとって一体どのような時代だったであろうか。占領下の日本を経験した日本人は占領に対してどのような気持ちを抱いていたか、GHQやマッカーサーに対する態度はどんなものだったか、について考察したい。

第三セクターは誰のものか?

Jerry Carter (University of Tennessee)

第三セクターとは何でしょうか? 国際的な定義では、NPOや市民団体など民間の非営利団体を指しますが、日本のように官と民の共同出資による法人を示すことは極めて稀です。身近な第三セクターとしては「パシフィコ横浜」や「横浜ワールドポーターズ」など色々な例が挙げられます。

総務省の調査によると、現在日本全国にある10,159の第三セクターのうち約37%の法人が赤字経営に直面しており、毎年その数が増加しているということです。近年こうした第三セクターは深刻な問題になっており、例えば大阪は金食い虫法人によって破産する可能性があるとも言われています。しかし逆に、成功例も多く挙げられます。そこで、本発表では、成功の秘訣や成功に導く経営方法などについて発表させていただきます。

谷崎潤一郎と映画:純文学の映画化について

Emily Chung (University of Chicago)

谷崎潤一郎 (1886-1965)と聞くと人は当然日本の代表的な「純文学」作家であると思うだろうが、実は谷崎は映画に非常に興味を持っていた。従って、ある程度谷崎の作品にはこの映画への愛情が反映されている。戦後以降、よく彼の文学は映画化されたが、この傾向は特に驚くことではないのである。

谷崎にとって、映画は「普通の夢よりは稍々ハツキリした夢」というかなり理想的なものだった。もしかしたら映画化された作品についての谷崎の判断基準は現実味がないほどに高かったかもしれない。この発表では谷崎の「痴人の愛」と、それを映画化した二つの作品 (一つは1949年、もう一つは1967年)を比較しながら、谷崎の映画観について議論したい。

源氏物語絵巻

Kelly Clifford (Harvard University)

源氏物語は幅広く研究されています。また、様々な源氏絵が色々な時代に描かれてきました。昨年、科学技術の進歩のおかげで、国宝源氏物語絵巻の復元図が新たに完成し、これによって以前は剥落などでよく分からなかったところがはっきりと見えるようになりました。

今回の発表では源氏物語の中から関屋の段を取り上げ、復元図と後世の源氏絵の一つである宗達の源氏物語関屋澪標図屏風を比較します。絵師がどのように源氏物語を解釈したか、それをどのように表現したかということを中心にしたいと思います。

外国人力士の日本語学習法

Daniel Fogle (New York University)

日本に住んでいる外国人は、日本語が上手だとはあまり評価されていないかもしれません。だからといって日本語を自由に使いこなす外国人が、全く存在しないというわけではありません。本発表で注目したいのは外国人の相撲力士です。どうして、日本の野球界などで活躍している外国人選手より上手なのでしょうか。しかも、会社で働いている外国人より敬語を巧みに使い、日本語を自然に話しますが、それはなぜでしょうか。本発表では外国人力士の日本語学習の秘訣を考えたいと思います。日本語の勉強で苦労している私たちの参考になるのではないでしょうか。

日本に於ける陰陽道

(発表者本人の希望により、このページへの掲載は控えさせていただきます)

金山神社とその社会的意味の変遷

Kara Hill (Ohio State University)

日本では、受験合格や交通安全の祈願にみられるように、神社や寺院に実用的で目に見える効用 (現世利益)を求めることが多いという。人々が求めるものは時代とともに変わるため、宗教施設の役割も変わっていくと考えられる。そこで、宗教施設が時代の状況や人々の要求によってどのように変わるかを、夫婦円満、子授・安産祈願、性病除けの神社として知られる川崎市の金山神社を事例として調査した。

宮司へのインタビューなどの結果、神社の運営には地域の人々が深く関わっており、その役割は人々の願い事によって、変遷していくということが確認できた。

「東海道四谷怪談」における幽霊の役割

Ken Kiyota (Columbia University)

幽霊はどのような意味を持っているでしょうか? ただ恐ろしいだけの存在でしょうか?

幽霊は現実の世界の外から来ますが、社会によって生み出され、それ故、それを生み出した社会と文化的な背景を反映しています。つまり、幽霊というものは実際に存在する社会的な問題や文化的な対立を象徴しているということです。そして、幽霊はその社会の支配的な考え方を疑い、社会に対する新たな考え方を提案しています。

有名な歌舞伎作品の一つである鶴屋南北の「東海道四谷怪談」に出てくる幽霊も江戸末期の身分制度の問題と深く関係しています。幽霊の登場は身分制度の問題を反映し、その制度に対して新たな社会のモデルを示しています。

大正日本と中流階級の意識

(発表者本人の希望により、このページへの掲載は控えさせていただきます)

憲法改正 Constitutional Revision

Yoshio Leeper (University of Wisconsin)

国家の基礎である憲法を改正すべきか、あるいは護るべきか、今、日本では改憲派と護憲派の対立が激しくなりつつあります。この議論の結果が、日本の将来に大きな影響をもたらすことは否定できません。

憲法改正に関する世論調査は様々な組織によって定期的に行われていますが、調査結果によると世論はどちらかと言えば改憲派に傾いているようです。しかし、このような意識調査の対象は社会人のみのようです。将来日本を担う青年は憲法改正についてどう考えているのでしょうか。そこで、大学生対象の意識調査票を作成し、5つの大学で実施しました。この調査の結果について発表させていただきたきます。

女性の海外流出とその日本に対する意義

Mark Makdad (University of Illinois)

外務省の調査によれば、海外在留邦人数において1999年に初めて女性が男性を上回ったという。しかし、在留先を欧米諸国に限ればかなり以前から既に同様の傾向が続いている。この女性の西洋指向を促進している原動力はいったい何だろうか。この問題については、文化人類学や社会学の視点からの研究が行われており、西洋へのあこがれ、自己実現への欲求などがその動機としてよく挙げられている。

本研究では、こうした先行研究をふまえた上でさらに事例研究として検証するために、海外在住経験があり (特に北米)、現在は日本に帰国している女性3名を対象に、彼女たちが日本を離れ海外在住に求めたもの、渡米前の意識、帰国後の「母国」への違和感などの聞き取り調査を行った。

株式会社は一体誰のものか

(発表者本人の希望により、このページへの掲載は控えさせていただきます)

ライブドア事件:ルールからはずれたゲーム

James McGee (George Washington University)

1996年、堀江貴文は有限会社「オン・ザ・エッジ」を設立した。東京証券取引所に上場し「ライブドア」と社名を変えた後も「時価総額世界一」を目標とし、買収を繰り返して会社を大きくしていった。しかし今年2月証券取引法違反容疑で逮捕される。その直後堀江が監修した「人生ゲームM&A」の出荷が自粛された。これは企業買収や業務提携などをしながら、総資産額を競うゲームだ。堀江は「人生ゲーム」につまずいたといえる。しかし、このゲームは堀江の生き方だけを象徴しているのか、それとも「金がすべて」という社会の風潮を反映したものなのか。本発表ではライブドア事件に対する意見を分析し、事件の原因・背景を考えていくこととする。

弁財天:曼陀羅と巡礼

Yaara Morris (University of London)

奈良県吉野郡にある天川村は、修験道の聖地として知られる熊野の本宮と密接な関係があった。その天川村には、近畿地方の最高峰・弥山の鎮守として創建された天川神社がある。この神社には珍しい曼陀羅「天川弁財天曼荼羅」が伝えられている。神社の本尊である弁財天は本来インドの神サラスヴァティーであったが、本地垂迹説に基づき修験道の神としても祀られるようになった。今回の発表では、「天川弁才天曼荼羅」の歴史と図像を説明し、また修験道と弁才天信仰との関連について検討する。

耐震偽装問題

Teja Muppirala (University of Illinois)

昨年ヒューザーによる耐震偽装が暴露されたことは、日本全国のマンションの住民の信頼と安心感を根本から失墜させた。本研究が目的とするのは、どのようないきさつで耐震性の不十分な建築物が多数の検査をすり抜け、合法であると公認されたかを調査することである。このスキャンダルに関与した者、すなわちマンションの売り主のヒューザー、建築設計者の姉歯氏、建設会社の木村建設などと、該当する法令のそれぞれの責任と問題点を明確にしていきたい。

ひきこもりにおける日米文化の背景について

Tommy Ou (Yale University)

ひきこもりとは、最近誰でも知っている言葉だが、はっきり定義を下すように言われて、それができる人は少数だと言えるだろう。

この発表ではひきこもりに対する誤解を解き、今医学界で認められている定義に基づき、ひきこもりという現象をもたらす文化背景を検討したい。特に、社会形態と家族の文化を欧米と比較し、日本における個人が自分以外の社会的実体をどう認識し、どのように反応するのかという問題について考える。そして、引きこもりの原因を明らかにしようと思う。

横浜の大空襲

Val Penascino (University of Pittsburgh)

子供の頃から第二次世界大戦に興味があり、横浜の戦争関係について調べたところ「横浜大空襲」のことがよく出てきた。広島と長崎の原爆、東京の空襲はよく知られているが横浜の場合はそうではない。今回、横浜に住んだことがきっかけで、この大空襲について知ろうと思い発表の話題に選んだ。

1945年5月29日朝9時半頃から、この横浜はまるで地獄のようになった。アメリカ軍が無差別に焼夷弾を落とし、日本の国民に戦争の恐ろしさを植えつけようとした。わずか1時間の空襲で横浜の中心部が全焼してしまった。

今横浜に住んでいる方々に、この土地で昔おこったことをぜひ知っていただきたいと思う。平和国家日本の国際都市横浜はたった60年ほど前は戦場だった。発表では、大空襲を実際に経験された方とのインタビューを通し、空襲の下で生活した市民の無力さを明かにする。

日本の音楽雑誌写真:芸術と商業の異種交配

Jessica Polichetti (University of Montana)

日本の音楽雑誌に掲載される写真は一体どんな役割を果たしているのだろうか。「ROCKIN’ON JAPAN」「SHOXX」「音楽と人」など、雑誌のほとんどが写真の「芸術性」にこだわっていることから見ると、このような出版物の中にあっても写真は「芸術」と呼ばれてもいいのではないだろうか。この発表の中で注目したいのは、音とイメージ、文章と写真、歌手とファン、雑誌と読者、そして「美」と「商業」の複雑で興味深い色々な関係である。芸術の境界が曖昧になったこの時代、音楽雑誌の写真は一つの解釈しか許さないのではなく、重層的な意味を持ち、芸術と商業の異種交配をもたらすに違いない。

JETプログラム終了後の進路

Shannon Quinn (University of Washington)

20年前に設立され、毎年外国からの約6,000名の参加者が日本全国で活動中であるJETプログラムは、しばしば英語教育の面では批判される。しかし、参加している外国人の日本理解を深めるのに貢献している点もあることを見落としてはならない。実際、日本政府は、JET終了者が日本と母国の関係作りに活躍し続けることを期待し、JET同窓会に経済的な支援を行っている。

この発表では私の個人的な経験と関係者のインタビューで得た情報を交えてJETプログラムの問題点と可能性についてお話しする。

著作権の近代化

Nathan Reaven (Ohio State University)

基本的に著作権とは一体何だろうか。日本の音楽産業は幅広い市場であるが、著作権はどのような役割を果たしているのか。過去10年間、インターネット時代を迎え著作権に対する脅威が広がってきた。この脅威に対する日本とアメリカの政策の違いを比較する。音楽著作権の規制はどのように変わったのだろうか。ラジオ、カラオケ等の伝統的な著作権の利用と、最近普及したネット配信に関する著作権の利用についてもあわせて分析する。

「特別ニーズ」の子どもたち

(発表者本人の希望により、このページへの掲載は控えさせていただきます)

謎の国―渤海

Jesse Sloane (Princeton University)

渤海とは、かつて東北アジアにあった国です。「かつて」と言っても、いまなお国際紛争の焦点になり続けています。

渤海は現在の中国と朝鮮半島に重なる領土を占めたのですが、古代渤海がどの国の歴史に帰するか、中国か韓国か、それとも曖昧なユーラシア史か、という問題に対しては各国の学者はそれぞれの主張をしています。そして、この議論は現在の国境の正当性に結びついています。今回の発表で、私は渤海のケースを通して民族が太古から時間を貫いて存在してきたという考えが思い込みであることを明らかにしようと思います。

佐多稲子のプロレタリア文学作品における女性像

Joanna Sturiano (Stanford University)

この発表では作家佐多稲子 (1904-1998)のプロレタリア文学作品を4つ取り上げる。「女店員とストライキ」 (1929)、「研究会挿話」 (1930)、「自己紹介」 (1929)と「煙草工女」 (1929)という短編小説にはそれぞれプロレタリア運動家の女主人公が登場する。これらの人物の基となっている女性像を掘り起こした上で、それが作品の中でどのような役割を果たしているかを分析する。次にこの女性像といわゆる「普通の女性像」との対比を行い、最後に、この作品に見られる文学作風と典型的なプロレタリア文学の比較を試みてみたい。

日本の広告に見る英語

Jonathan Tapp (University of Chicago)

日本の広告は変…。こういう文句を外国人からよく聞くが、何が変なのかと尋ねると一つの具体的な答えしか出てこない。その返事は「英語」だという。外国人が英語を見て、広告に引っかかるのは、国語としての日本語と外国語であるはずの英語が同時に載っていること、つまり広告会社側は消費者に両方とも理解してもらうことを期待しているという点である。

そこで、なぜ日本の広告で英語が使われているのかということを研究の中心にし、様々な資料を調べることにした。雑誌の広告を収集し、カテゴリー別そして記載雑誌別に分析してみた。この結果を参考にし、仮説を立ててから、実情について伺うために現職のコピーライターの方々にインタビューさせていただき、仮説・分析を再考した。その内容について発表させていただきたいと思う。

宗教マンガ:個人化・商品化しつつある現代日本の宗教

Jolyon Thomas (University of Hawaii)

外国語の「religion」という概念の訳語として導入された「宗教」という言葉には定義・解釈の問題が少なくない。宗教に対して憧れと違和感を感じた日本人は信仰と理性を折衷するものを求めて来た。その結果、70年代から宗教の個人化と消費化が顕著になり、オルタナティブ行為や商品 (占い、オカルト、ヒーリング等)が宗教の役割を果たすことになった。これらの商品・行為の中で比較的見落とされているものがマンガである。この発表では「宗教マンガ」というジャンルの特徴を検討し、その消費者および教団・教義に対しての影響を探る。

アメリカにおける日本人学校・補習授業校

(発表者本人の希望により、このページへの掲載は控えさせていただきます)

山本昇雲と近代の視角化

(発表者本人の希望により、このページへの掲載は控えさせていただきます)

日本のクリスマス:本物か偽物か

Anne Watzka (Yale University)

日本では多くの伝統的な年中行事が消えていく反面、残された行事の意味や内容が大きく変化している。その典型的な例として日本のクリスマスを分析したいと思う。外国から伝播したクリスマスの文化的な要素は、日本の伝統的な年中行事と競合したにもかかわらず普及した。しかし、なぜクリスマスは日本人のあいだに浸透したのだろうか。今回の発表では、明治時代から現在までのクリスマスに対する考え方や、その過ごし方の変化を検討した。研究方法として、文化変容論、文化触変研究のための覚書、ポストモダニズムの理論を用いている。

ライブドア対フジテレビ、敵対的買収に関する日本の法整備

Ian Wright (University of Virginia)

本発表では、まず「M&A」と「敵対的買収」を定義する。「M&A」とは、簡単に言うとある会社が他の会社の支配権を獲得することであり、「敵対的買収」とは、友好的買収と違い、被買収企業の取締役や経営陣の抵抗がある企業買収のことである。

次に、2年前のライブドアによるニッポン放送の買収の挑戦を敵対的買収の一つの例として挙げ、日本でのM&Aの歴史と規制の変遷を概観する。戦前は、財閥による電力産業と鉄道会社の企業買収が活発で敵対的買収もあったが、戦後は、日本での企業買収は激減した。しかし、完全になくなったわけではなく、1950年代から現代にかけてしばしば企業買収が話題になっている。

最後に、現在の規制状況に関して発表する。1996年のビッグバン、新会社法とこれからの規制改正案という3点に注目し、日本の企業買収市場はこれからどうなるかについて考える。

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アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター
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