2007-2008年度 卒業発表会内容紹介

香月泰男:記憶と憧れ、苦悩と希望

Benjamin Allen (University of Illinois)

(発表者本人の希望により、このページへの発表内容の掲載は控えさせていただきます)

パブリック・ディプロマシー:日中関係進展の可能性

Brian Ashenfelder (Temple University)

毎年軍事力を強めハードパワーを高めている中国に対し、日本は自国の軍隊を持たず、高齢化、少子化によってハードパワーはますます弱まっています。中国に対してハードパワーで対抗するのが難しい現状、中国とよい関係を築くにはどうしたらよいでしょうか? その解決策は、日本がソフトパワーを強めることにあると考えます。強いソフトパワーがあるということは、それを使った効果的なパブリック・ディプロマシーができるということです。日本政府の対中パブリック・ディプロマシーについて、調べたことを発表します。

気海丹田と禅宗における身心観

Alexander Bazes (University of Pennsylvania)

本発表では、禅宗の瞑想についての様々な論文をとりあげ、丹田の扱いを比較する。また、天台宗や道教とのつながりにもふれ、丹田に対する意識の発展の過程を考察する。

禅宗で重要な位置を占めるようになった気海丹田(あるいは臍下丹田)は一つだけであるが、道教において、丹田は三つである。その考え方は天台宗に受けつがれ、そこでも臍下丹田は瞑想の主な対象ではなかった。

禅宗における丹田の位置づけには、それなりの変化がある。鎌倉時代には、道教や天台宗と同じように扱われた事があり、そして全く無視された事もある。その理由を説明した上で、江戸時代の禅師である白隠慧鶴の解釈をとりあげる。結論として、なぜ白隠慧鶴は丹田を瞑想の中心に位置づけたのか解釈し、その理由を説明する。

一本道か岐路か? 創価学会の平和主義的努力と日本の外交政策

Timothy Benedict (Harvard University)

創価学会は展示会、出版物、また池田大作の平和提言を通して平和主義の促進に積極的である。しかし、同時に政治の世界では平和主義の認識が最近衰えてきたとも言える。現在、自衛隊は国連との協力の形をもって世界に派遣され、日本国憲法の第9条改正に関する議論も高まっている。この現状の中、政治活動の長い歴史を有する創価学会がどのように平和主義を政治の世界で促進し、右派思考の高まりを和らげようとしているのかを本発表で考察したい。

日本の新たな少数民族としてのフィリピン人

Marshall Bennett (Stanford University)

人類の歴史が始まって以来、さまざまな民族が地球上を旅してきた。政治経済学者のアダム・スミスなどは、旅行を通して、ある国民と外国人が新たな考えを互いに交流すると述べている。その結果、多かれ少なかれ、国家は社会と生活の質を改善できるようになった。日本も例外ではない。少子化と高齢化という社会問題を抱える日本において、移民と外国人は新たに重要な役割を果たすだろう。この発表では、日本の新たな少数民族としてのフィリピン人、特にフィリピン人の子供の問題を中心に取り上げる。日本とフィリピンの歴史は比較的浅く、在日フィリピン人の数は日本の少数民族の中で4番目に過ぎないが、日本における少数民族の将来について考えるには好例である。

澁澤龍彦『高丘親王航海記』

David Boyd (University of California, Los Angels)

(発表者本人の希望により、このページへの発表内容の掲載は控えさせていただきます)

『源氏物語』と『長恨歌』:『桐壺』の巻に現れる『長恨歌』の構造と楊貴妃の資質

Matthew Chudnow (The Ohio State University)

中国の唐代の詩人、白楽天の『長恨歌』は『源氏物語』の全体的な構造や登場人物の資質の中で重要な役割を演じている。特に物語の序奏である『桐壺』の巻の深層構造を分析すると、『長恨歌』の物語とそこに登場する楊貴妃という人物の資質の影響が明らかに認識できる。例えば、『桐壺』の巻の前半は『長恨歌』の筋と平行して進んでいる。しかしながら、徐々に『長恨歌』とは異なる『源氏物語』独自の時空、世界観、根本的なテーマが生じてくる。また、一方で後半に登場する桐壺更衣と光源氏の資質の中には、『長恨歌』の楊貴妃と重なる様々な共通点が見出されるのである。

ジャンルによる翻訳とその落とし穴

Andrew Cookro (Cornell University)

翻訳とは何か。日本語と英語の双方において翻訳家はどのような問題を解決しなければならないのだろうか。

今回の発表のために、実際に様々なジャンルの翻訳に取り組み、また翻訳論についても調査してみた。言語と文化は密接な関連があり、翻訳は単に言葉を伝えることではなく、異なる言語の別の規範によって異文化を翻訳することだと考えるべきであろう。日本語では地位や性的差異なども表現しわけるが、英語ではこのような差異を日本語ほどには言語化しないので翻訳上どのように扱うべきなのだろうか。そしてジャンルによって、どの程度まで自由な解釈が許されるのか、あるいは逆に直訳すべきなのか、ということを翻訳家は自問する必要があるだろう。以上のような翻訳をめぐる様々な問題について考察する。

文化を伝える字幕:新たな翻訳法の誕生

Sarah Cortina (Yale University)

アメリカで、日本のテレビドラマ等の人気が上昇してきた。しかし、その視聴者の日本語能力は驚くほど低い。こうした、日本語が分からない人のために、たとえばアメリカで販売されていないドラマ等の作品の英語の字幕版を、ネットにアップロードするFansubというものが存在する。本発表では、Fansubグループによって翻訳された字幕と字幕会社によるものとを比較しながら、Fansubの目的、過程、存在している理由を分析した上、日本のドラマの視聴者を対象したアンケート結果から、文化情報の有無がドラマを観る経験にどのように影響するかについて考えたいと思う。

JICAと日系人社会

Andre Kobayashi Deckrow (Amherst College)

2008年10月、日本政府は二つの国際援助機関、独立行政法人国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)を統合し、世界最大の政府開発援助(ODA)機関を設立する。この新JICAは、発展途上国との関係とODA改革について政府内で10年にわたり議論された結果であるといえる。JICAとJBICの主な業務として途上国援助が挙げられるが、この他にも現在JICAは中南米の日系人社会の支援もしている。

本発表ではJICAと日系人社会との歴史的関係についてまとめ、JICAの「責任」について述べる。さらに現在のJICAの日系人支援活動を紹介し、今回の合併による影響について考察する。

成田治安法と最高裁大法廷判決

Aaron DeCosta (Beloit College)

1978年、成田空港反対運動は最高点に達する。反対派の一部が空港に進入し、管制塔を占領、航空管理機器を破壊した。議会は対応策として、成田治安法という特別立法を即座に成立させ、運輸大臣は「同盟小屋」などの使用を禁止した。そして、この法の違憲性と処分の取消しが、最終的に最高裁判所で審議されることになる。判決は請求の却下、つまり、成田治安法は合憲、というものであった。これを判例とするには問題があると思われる。憲法を守るはずの最高裁判所が、憲法の解釈というよりも、むしろ政治的な意見を基に判決を下したからである。この発表では、判決文を分析し、使われている表現や論理的な筋道に対する疑問点を取り上げる。

明治時代の個人全集をめぐる問題

Molly Des Jardin (University of Michigan)

文学作品を検討する際、編集者の役割と影響という点はそれほど取り上げられない。しかし、編集者の力は個人全集の制作過程を検討していくと明らかになる。個人全集は明治後半に初めて現れたが、この明治時代の個人全集の成り立ちを検討することによって、当時まだ定着していなかった「作家」という概念の創造が観察できる。個人全集における作品の編集という行為、また作品のテキストでないものを加えるという行為を通して編集者は当時の「作家」という概念を反映させ、同時に自分の概念をも文学世界の言説に加えた。1902年の『透谷全集』ではその「作家」としてのアイデンテイテイーが作品の編集、友人の追悼文、写真、日記の抜粋といった資料から創造される過程が見える。今回の発表では『透谷全集』の分析を通じて、「作家」として、「個人」としての「透谷」の創造を検討する。

政策としての地図:日本北辺における国境の画定

Evan Dicken (Ohio State University)

18世紀末から19世紀初頭に至るまで、次第に勢力を増してきたロシアへの対抗策として、幕府は日本の北辺に様々な地理学者を派遣した。彼らによって作られた地図は、それ以前の日本の地理学者による地図と異なり、精密さの点で同時代の西洋の地図とほぼ同じ水準に達していた。

本発表では「なぜ幕府が伝統的な作り方からそのような科学的な地図へと急に変更したのか」ということを検討し、地図が幕府のロシアに対する政策に影響をあたえただけではなく、逆に幕府の政策が地図の作り方に影響したということを明らかにする。

日本児童文学に現れる色彩、自然、文化

Misa Dikengil (Northwestern University)

本発表では、まず、簡潔に西洋と日本の児童文学の歴史における宗教と文化の役割を説明し、児童文学の学際的な研究の必要性を論じます。そして、日本児童文学に現れる独自な「自然観」、つまり、自然は生命感にあふれる生き生きしたものとして取り扱われているということについて説明します。特にその一例として福永令三や安房直子の作品を紹介し、その色彩の用い方を焦点にして、色が生き生きした存在感を持つ自然の象徴であることを論じます。

国際化に配慮したまちづくり:「アメリカ村」とそこから学ぶ課題

Christopher Hainge (Bucknell University)

訪日外国人観光客のほとんどが主要観光地に集中する傾向があり、地方都市にはその恩恵が及びません。地方都市にも様々な可能性があるにもかかわらず、地方都市自体がこれを見過ごしているのではないでしょうか。この発表を通して、地方都市における国際化に配慮したまちづくりを検証し、それによる二つの効果とその実現には何が必要なのかについて述べたいと思います。

衣裳における江戸時代の女性美

Kathryn Handlir (Harvard University)

江戸時代には「美人」という画題が現れ、多くの画家が美人画を通して女性美を表すことに尽力し始めた。その女性美を表現するのは女性自身ではなく、女性が着ている着衣その物なのである。江戸の画家たちは衣裳の模様を描くことで色彩、意味、そして質感を絵画に入れることが出来た。事実、多数の優れた画家は本物の着物をデザインした経験があり、そのため絵画の中でも魅力的な着物を作ることが出来たと考えられる。本発表では菱川師宣という江戸時代の代表的な「アーティスト・デザイナー」や師宣の作品を実例として、江戸美術における着物の重要な存在を提示したいと思う。

日本語の文字体系における語彙階層レベルの作用

Mark Hansell (Carleton College)

文字論では、すべての文字はそれぞれある特定の言語構造階層で働いている。つまり、音声言語のその階層の単位が一対一で文字に対応するはずである。たとえば、アルファベットは音素文字であり、仮名は音節文字、漢字は形態素文字である。しかし、日本語の漢字の場合は、対応する形態素が表記された言葉によって違う時、それ以外に語彙階層情報がなければならない、いわゆる、語彙階層作用がある。たとえば、<水>という漢字は二つの同意形態素(/mizu/, /sui/)を表記できるが、<水着>や<水泳>の字を読むと、それぞれの全体語彙の形によって正しい形態素が選ばれるということである。

この発表では、語彙階層作用の分析を通じて漢字は形態素文字であるという学説を検討してみたい。

倉橋由美子と身体の恐怖

Kathryn Hemmann (University of Pennsylvania)

本発表では「倉橋由美子の怪奇掌編」を通じて倉橋が表現した身体に対する恐怖を分析する。この短編集の様々な小説は「変身」や「身体の裏切り」というテーマを何度も繰り返している。病気や肉欲が人間の心を圧倒し、主人公が精神的に人間ではない存在になっていく出来事が倉橋の小説には多く、読み手は身体に潜んでいる謎と恐怖を感覚するようになる。倉橋が創造した世界は体液で濡れており、怪物が群がっている。境が緩くなり、自己と他者の区別が消える。ポストモダニストの倉橋にとっては、二元論や既成概念の崩壊が重要なはずなのに、この小説世界にはフェミニスト的に偏った要素が多く存在する。その上、倉橋の理知的で突き放すような文体は女性の問題に対する男性的見地を象徴し、人間的苦悩を無視するような語り方は恐怖を強調する。

日本における自殺

(発表者本人の希望により、このページへの発表内容の掲載は控えさせていただきます)

みなとみらいの大観覧車

Byol Kim (Yale University)

1989年横浜博覧会の時に設置されたみなとみらいの大観覧車は、誕生からわずか20年しか経っていないにもかかわらず、現在では横浜のシンボルになっている。夜空に次々と開く花のような大観覧車のイルミネーションは、今日も多くの観光客を立ち止まらせている。本発表では、このコスモクロック21のあまり知られていない様々な面を紹介させていただきたい。

ガールズ・スタイル:F1層とムービーマーケティング

Colleen Laird (University of Oregon)

F1層というのはマーケティング用語で、20歳から34歳の女性を指す。映画産業においては、F1層の観客が一番大きいので、配給会社や映画館やテレビスタジオはF1層に対して様々なマーケティング戦略を作成し利用している。「ガールズ・スタイル」、あるいはいわゆる「女性映画」といった概念は、その戦略の一環である。今年、F1層の観客を引きつけるために、日本映画専門チャンネルという会社は、二ヶ月間「Dear Woman: 映画をつくる女性たち」という番組シリーズを放送した。プロジェクトのために、私は日本映画専門チャンネルのスタジオを訪ね、番組のディレクターにF1層と日本女性監督についてインタビューを行うことができた。本発表では、そのインタビューの内容を中心に、「ガールズ・スタイル」という概念について検討を行う。

神奈川県の介護施設の状況

Brooke Lathram (University of Michigan)

現在、私はある介護施設でボランティア活動をしています。お年寄りに英語を教えたり、折り紙を教えていただいたり、話相手になったりしています。他の介護施設も見学させていただきました。本日は、私の個人的な経験にもとづき、神奈川県の介護施設を巡る状況について説明させていただきたいと思っております。まず、介護保険全般と神奈川県の介護保険の構造、次に、ボランティアと見学の経験を通して学んだこと、そして最後に少しだけ、今後、どのような取り組みが必要であるかについてお話しします。

小川洋子と“女性の孤独”

Amy Leader (University of California, Los Angels)

最近、小川洋子という作家の小説が日本で有名になっており、映画化もされています。欧米各国でも翻訳が出版されています。特に、2003年の『博士の愛した数式』は世界中で読まれており、国際的なセンセーションを巻き起こしていると言えます。小川の最近の小説はテーマが広く、主人公は色々な背景を持ち、様々な態度で人生を歩みます。しかし、彼女の初期の小説はある特定の微妙な立場から書かれたと言えます。それらの主人公は作者本人と同じく若い日本人女性でしたし、その女性はよく自分の生活、自分の独立を様々な仕方で初めて体験します。本発表では、それら初期の小説で頻繁に使われたテーマを検討したいと思います。

日本での就職活動:こんな私はどうすれば?!

Felicia Lee (Stanford University)

センターで頑張って勉強してきた日本語をすぐに役立てたいと思っていた私の日本での就職活動について発表させていただきます。日本の企業、九社に申し込んだ時に気づいたこと、感じたこと、知っていればよかったことを簡単にお伝えします。その上で、就職活動をするのに重要な点、日本で働きたい外国人が面接でよく聞かれる質問と、日本の企業の申し込みの過程で予想すべきことを全て、15分以内の速習講座でお教えします。

日本で就職する希望のある外国人の方や外国人の目から見た日本の就活はどのようなものなのかを知りたい方、是非この発表を見逃さないでください!

南京大虐殺と日本の歴史教科書

Jason Lindgren (Yale University)

この研究プロジェクトの目的は、よく話題になる日本の中学校の教科書における南京大虐殺事件の取扱いを考察する事である。とりわけ、その取扱いの年代による改訂とそれに関連する日本への国際的な圧力を分析の対象とした。それを行うため、1954年から2006年までの代表的な教科書を揃え、南京大虐殺事件をめぐる記述の変化と当時の政治的な事件の背景を考慮した(例えば、1982年の最初の歴史問題の論争や中国で起こった2005年の反日デモなど)。結果として、南京の取扱いが長い年月をかけて比較的に改善してきたと判断できるが、最近事情を曖昧にしようとする新たな傾向もあるようである。最後に、教科書問題から見た日中関係の将来について述べる。

騎馬民族説再考

Scott Lyons (Washington University in St. Louis)

いわゆる騎馬民族説とは、4世紀の後半頃、アジア大陸から来た騎馬民族が日本列島を侵略し、倭政権を樹立したというのものであり、1949年、江上波夫氏によって提唱された。日本では、この説がよく議論され、考古学的な検証の結果、合理的ではないとされたのである。しかし海外の日本歴史学者の中では、騎馬民族説がさまざまに変化しながら、今だに人気を集めている。この発表は、考古学的な観点から騎馬民族説の妥当性を再度考察するものである。

昭和初期の大衆文化に於ける愛国表現

Amy Bliss Marshall (Brown University)

関東大震災以降、新聞や雑誌、ラジオなどが普及し、「マスメディア」の役割や影響が大きくなっていく。読者や聴衆に、社会に参加し、国民として自覚するよう促し、近代国民国家の形成に深く関わったのである。では、昭和初期にマスメディアに現れる愛国的な表現とは具体的にどのようなものだったのであろうか。

これを考察するために、1920~30年代に日本中で広く読まれた雑誌『キング』(講談社)の特集記事「明治大正昭和大絵巻」(1931年1月)を分析する。日本が大国となるとともに、国民は国内外の行事に強い関心を持つようになっていった。『キング』は、特に運動競技を媒体として、国民に一体感を形成し、所属意識を持たせる役割を果たしたのではないか、という視点から話したいと思う。

女流能楽師:伝統の再生

Hanna McGaughey (Smith College)

女流能楽は世阿弥と同時代に先例があったにもかからわず、江戸時代初期の1629年に禁止されて以来、大正時代まで女性が本物の舞台を踏むことは許されませんでした。この発表では、まず初めに女猿楽がどのように世阿弥の能に影響を与えたか、次に大正時代に初めて舞台に立った白洲正子および津村記三子を比較し、最後に現在、活躍する女流能楽師の限界についてお話させていただきます。

「こんなものでよかったら」浅田次郎作品の翻訳過程とその教訓

Sean McKelvey (Naropa University)

この発表では日本語を英語に翻訳する過程で発生する様々な問題について考察します。今回わたくしは浅田次郎の短編小説をはじめとして、政府の報告やビジネスの契約など、幅広く各種メディアの英訳に取り組みました。その過程で学んだことを中心に、翻訳の醍醐味と苦労について説明します。

浅田次郎の作品は独特なスタイルのために、翻訳者泣かせの文章といってよいでしょう。意味内容を忠実に守ると同時に、英語の読者に表現意図が正確かつ自然に伝わるようにするには、どうすればいいのかなど、翻訳過程で多くの困難に直面しました。将来、翻訳者を目指している自分にとって、こうした実践経験から学んだ教訓についても述べます。

「旅行」と帝国日本:植民地の案内書から

(発表者本人の希望により、このページへの発表内容の掲載は控えさせていただきます)

夏目漱石『坑夫』:多重人格と近代主義

Aragorn Quinn (Stanford University)

夏目漱石の『抗夫』(1907年)は青年が家を出て抗夫として働く話である。一人の語り手が「作家」と「回顧録の筆者」そして「主人公」の三つの立場から叙述しているが、どの視点も読者にとって感情移入できないものである。言うまでもなく、『吾輩は猫である』(1905年)の猫という語り手は実際にはあり得ないにもかかわらず自分の死について描写している。この戦略を使ったことは漱石がいわゆる「描写の危機」について疑問視していたことを示唆している。本発表では『抗夫』の語り手を分析すること、つまり上述の「作家」、「回顧録の筆者」、そして「主人公」の役割を検討することを通して、漱石の反描写主義を浮き彫りにする。結論として、漱石は同時代の世界中の近代主義者に連なる、あるいは後の日本の近代主義者の先駆けであった、という可能性を主張する。

神仏習合への「再訪」:新しい視覚文化論的なアプローチへ

Aaron Rio (Columbia University)

本発表は、神仏習合という宗教的・文化的な現象に関する再検討の必要性を明確にする試みである。神仏習合の歴史的な存在、または神道と仏教の関わりなどを論じる研究が少なくはないが、これらの研究では主に組織的、或は教義的な特質が中心となるため、エリート主義的な域を出ないと言える。こうした今日の研究状況を概要した上で、美術史学及び宗教学の言説を再考しながら、信念体系視覚文化論という新たな学際的なアプローチを提唱する。このアプローチは、従来の研究を否定するものではなく、唯それを基盤とし神仏習合に於ける庶民的な面を重視する、より包括的な分析を可能にするものなのである。

木曽義仲の盛衰にみる源平争乱

Matthew Robinson (University of Southern California)

源平争乱の研究においては、木曽義仲はその活躍が戦の間に限られているとしてあまり注目されない。しかし、戦争の状況、とりわけ武士の行動と心理を理解するためには、義仲の盛衰の要因を解明することは欠かせない。

義仲は乳母父の家族に頼り、1180年9月に挙兵したが、1183年には平氏の大軍を次々と破って、都の平安京を手に入れるほどの軍事力を集めることができた。しかし1184年1月にその勢力は著しく弱体化し、義仲は源義経に滅ぼされた。

義仲の敗北を源頼朝と対照すると、頼朝が後ほど鎌倉幕府となった軍隊を結成した政治的・軍事的な手腕がわれわれの目に明らかになる。このように義仲を鏡とすることで、12世紀末の武士社会の理解が深まると考えられる。

技術大国の意外な弱点:日本のソフトウェア産業の実情

Alan Rogers (Georgia Institute of Technology)

日本は一番技術的に進んでいる国であるとよく言われている。「日本の携帯電話はアメリカより3年ほど進んでいる」とか「日本で皆が光ファイバーを使っている」などのような「伝説」をよく聞く。この一般的イメージに反して、日本は、世界中でパソコンの販売数が減っている唯一の国であるという事実もある。さらに、技術的なライバルのアメリカと比べると、日本のソフトウェア産業は意外に遅れている。そこで、この発表では、こうなった原因を検討する。特に、技術者の人材不足の問題と、協力体制の欠如を生み出した産業界の構造と歴史を指摘する。

自然主義と坪内逍遙

Benjamin Rosenberg (University of Wisconsin)

坪内逍遥研究では、1886年に刊行された『小説神髄』という論文に見られる矛盾や不一致を理解する努力が重ねられてきた。本発表は、逍遥理解のためのそれらの方法から一つを借用し、「文脈」を議論の中心とするものである。ことに、逍遥が修辞学を通して構築した、新奇な「逍遥」的小説をめぐる枠組みを見出したい。こうしたフィクションの枠組みは『小説神髄』が現れた後すぐ、小説に関する論争に点々と滴る雫のように入り込み、時間が経過し、議論における言葉を変えながらも、皆の主張する問題が常に同じだったと言えるほど確かに影響を与え続けてきたのである。

隠れた需要:アメリカにおける日本の音楽

Benjamin Rubin (Berklee College of Music)

日本はクリエティブ・コンテンツを製造している国の中で最もアクティブな国の一つだが、日本の音楽は海外の熱心なファンに届いていない。実に、毎年何千枚ものCDや音楽のDVDが頒布されているにもかかわらず、海外に開かれていない現状にある。

この発表では、アメリカにおける日本の音楽にフォーカスする。特に、どのような過程で日本の音楽ファンが形成されるのかを説明しながら、海賊版についても触れる。そして、海外に日本の音楽を配信している「ヒヤジャパン」という会社を紹介し、日本の音楽の国際化について論じたい。

日本人は洋盤の音楽を一途に消費し続けているが、やっと逆に、アメリカが恩(音)返しをする時代になったのではないだろうか。

「外蕃通書」における家康とベトナムとの通信

Travis Seifman (University of London - SOAS)

慶長6年(1601年)に、将軍になる前の徳川家康とベトナムの南部の将軍に当たる権力を持った阮瀇(グェン・ホアン)との通信交換があった。現存の日越通信の資料の中で、これは最初の物とされている。発表では、19世紀の「外蕃通所」という史料に基づいて、この通信の内容、歴史的な背景そして意義について触れたいと思う。

日本のベンチャー企業環境:事実とイメージ ライブドア事件を事例として

Connor Shepherd (Dartmouth College)

従来日本の企業の商習慣についてはかなり研究されてきましたが、一方、新興企業についてはあまり議論されているとはいえません。今回は2006年1月の「ライブドア事件」を事例として発表します。目的は、①世論がいかにベンチャー企業環境内に存在する誘発要因を操作するのか、②マスコミはその世論形成にどのような役割を果たすか、の2点です。

中国の博物館と記念館:「被害者」の中国歴史観

Seiji Shirane (Yale University)

本発表では20世紀に日本、西洋列強によって中国が受けた戦争被害を記念する幾つかの中国歴史博物館と記念館を取り上げる。特に「抗日戦争」に関する歴史博物館が清朝末期以来の中国を被害者の歴史として叙述していること、そして中国が二度と外国に侵略されないよう、あるいは屈辱を受けないよう、現代の中国人が中国を強化しなければならないと呼びかけていることに注目したい。中国国外ではあまり知られていない展示施設、瀋陽9.18事変記念館、ハルビン731部隊生物細菌戦博物館、重慶六五大爆撃記念碑、五源抗日戦争烈士園などでは、拷問されている中国市民、死亡した児童、生物実験に関する写真が展示されている。これらの写真は吐き気をもよおすほど残虐なもので、このような写真や歴史教育のあり方が、中国人の日本に対する憎しみの感情を生み出しているのではないだろうか。

国境を越えるイメージ:日本観光ポスターに現れる自己像

Jeffrey Skiles (Yale University)

広告は社会的な価値観を反映する。とりわけ、外国人観光客を対象にした観光産業の宣伝はその国の自己像を暗に利用し、海外でのその国のイメージに影響を与える。国境を越えるイメージとして、国の自己像を表す観光広告はその国を代表する物だと言えよう。そのため、広告の内容と媒体を分析するのは国際交流と社会の動きを解明する方法の一つである。しかし、観光客の注目を引くイメージは近代的な国が理想化したアイデンティティと一致しているだろうか。この発表では、海外での日本の典型的イメージの歴史を明らかにしながら、外国人観光客を対象にした広告、特に観光ポスターに現れる日本の自己像を見ていく。

もし医療事故にあったら:日本の医療の現状

Jay Starkey (University of California, San Francisco)

医療事故による死亡が発生した際、日本では医師に責任があるとされる。刑事事件として扱われ、警察による取り調べと捜査が行われる。医療訴訟が急増し、死に至る可能性の高い治療を医者がためらう傾向もみられる。世界屈指とされる日本の医療がこのような崩壊の危機にある現状は、海外ではあまり知られていない。本発表では、事故についての一般的な考え方を示し文化的背景を考慮した上で、現在の法医学が及ぼす医療行為への影響を明らかにする。さらに、政府が新しく導入する第三者機関による医療事故調査制度についても検討したい。

音楽翻訳:近世日本人と西洋音楽との出会い

Brigid Vance (Princeton University)

本発表では、所謂「西洋音楽翻訳過程」を中心に、近世に於ける日本人の音楽概念、知識、そして印象等を明らかにしたい。この研究では教育、奏楽、テキストという三つの側面を研究対象にしている。始めに、キリスト教宣教師によって日本に設立されたセミナリヨとコレジヨで教えられていた音楽について述べ、次に天正少年遣欧使節がヨーロッパで接した音楽と帰国後演奏した音楽について紹介し、最後に輸入または日本で出版された西洋音楽と関係がある文献(典礼記録、採訪記、辞書等)を例として、近世の音楽交流に注目したい。

「せんたく」とは?

Richard Wright (Yale University)

最近、日本の政界ではマニフェストについての議論が進んでいる。この議論を中心に行っている「せんたく」と言う団体は、次回の選挙では日本の政治家が皆マニフェストを出すことを求めている。マニフェストは日本の政界ではどのような役割を果たすのか、また「せんたく」はどういう団体か、発表ではこの二点を説明したい。

「雅集図」の魅力

Yu Yu (University of Chicago)

(発表者本人の希望により、このページへの発表内容の掲載は控えさせていただきます)

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